連載・コラム アメリカ101

編集: Weekly LALALA - 2021年02月16日

第71回 
2022年中間選挙、トランプ上院議員誕生か?

 

 これだから「ポリティカル・ジャンキー」(political junkie)はやめられないということでしょうか。日本語では、政治絡みの話題なら徹夜でも語り明かすことができる「床屋談義が好きな人」ということでしょうが、今回取り上げる「2022年中間選挙でトランプ上院議員誕生へ」というのが、この床屋談義のテーマです。ここで言う「トランプ上院議員」とは、大統領選挙で敗北、現在はフロリダ州マイアミのマー・ァ・ラゴの邸宅に引きこもり、公の場に顔を見せていないドナルド・トランプ前大統領ではなく、次男エリックの妻ララ・トランプ(Lara Trump)(38)のことです。トランプ一族では、しばしば長男トランプ・ジュニアや長女イバンカの政治家転身がうわさされてきましたが、ララが政治面での「トランプ・ブランド」を引き継ぐ有力候補として、このところ注目を浴びているのです。「政治に関心がない」「政治のことはわからない」といった向きの人の興味を引くであろう「ヒューマン・ストーリー」でもあります。 

 

 ララ・トランプという名前を耳にして、すぐに「アー、あの女性か」と合点がいくのは、相当なポリティカル・ジャンキーでしょう。エリックと結婚したのが2014年。2012年から2016年まで、娯楽情報テレビ番組「Inside Editon」のプロデューサーで、その関係で知り合ったようです。昨年の大統領選挙では、義父の熱烈な支持者として、大統領顧問という肩書もあり、主として女性票固めの集会にしばしばスピーカーとして出席。生まれ育ったサウスカロライナ州特有のゆっくりした南部なまりではなく、マンハッタンで働くキャリアウーマンらしいメリハリのきいたスピーチを駆使する、知る人ぞ知るカリスマ的存在でした。昨年の共和党全国大会では、エリックと結婚して「トランプ一族の身内」となった経験について演説、それ以前に耳にしたうわさと異なり、義父トランプが思いやりに満ちた、家族思いの善良な人物であることを実感したという「トランプ賛美」を口にして、支持者の注目を集めました。 

 

 そのララ・トランプの政界進出説が初めて報じられたのは、大統領選でのトランプ敗北が明らかになった同月中旬で、ニューヨーク・タイムズ紙が関係筋の情報として、出身州ノースカロライナ州選出の現職上院議員(共和党)リチャード・バーが再選不出馬を表明したのを受けて、その後任を狙うと伝えました。現職不在の「オープン選挙」であるため、共和党からは数人の有力政治家が立候補への意欲を示しているため、党候補指名確保に向けて激しい予備選挙が予想されています。 

 

 現在共和党は、大統領選敗北後の「ポスト・トランプ」の方向性を模索中です。二回目のトランプ弾劾裁判では、党内から有罪とする造反議員が7人も出ました。トランプ支持で結束してきた共和党内での亀裂の深さを物語るものです。そして、とりあえずトランプ無罪評決という“みそぎ”を経て、態勢立て直しに本格的に取り組む矢先に、突然出てきたのが、「ララ・トランプは共和党の未来」とするリンゼー・グラム上院議員(共和、ノースカロライナ州選出)の発言です。同党の重鎮で、マー・ラ・ゴの邸宅で表面的には沈黙を守るトランプとコンタクトがあるというグラムは、2月14日のフォックス・ニュースとのインタビュー番組で、「今回の弾劾裁判を通じての最大の勝者(winner)はララ・トランプだと思う」「彼女が(上院選に)出馬するなら、間違いなく支援する。なぜなら、彼女は共和党の将来を代表する人物だからだ」と最大限の誉め言葉を口にしました。これがトランプの意向を反映したものかで憶測を呼んでおり、ララ・トランプ自身は沈黙を守っているものの、今後の共和党、そしてアメリカの政治を見通すうえで欠かせない人物として一躍スポットライトを浴びています。 


 

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ホワイトハウスまでの険しい道のり

 

    第72回 テキサス州スキャンダル ホワイトハウスまでの険しい道のり  

    2021年02月23日 アメリカ101

     前回のコラムで「ポリティカル・ジャンキー」を話題にしましたが、早速そんな人たちにとって文字通りの「field day」(おおはしゃぎの機会)となるテキサス州選出共和党上院議員テッド・クルーズ(50)による同州大寒波の最中の“信じられない愚行”が明らかになり、昨年の大統領選挙に出馬、2024年にも再出馬が噂されるという、この大物政治家の政治生命に大きなダメージとなっています。    話の発端は、先ごろのテキサス州を中心として南部諸州を襲った記録的な寒波です。気温が急降下、ヒューストンのような大都市部でもセ氏マイナス10度という寒さで暖房用の電力需要急増、同州内の送電システムが危険に直面して広範囲な地域が停電。寒さで水道管が破裂、漏水で家屋内に氷柱が垂れるとか、水圧低下による水質悪化で雪を沸騰して飲料水を確保するといった日常生活への支障が生じただけでなく、屋内でさえ氷点下という住宅もあり、50人以上の死者が出ています。そんな中、グレッグ・アボット知事や地元議員たちも相次いで、市民に対して外出を自粛し、できるだけ身の安全を確保するよう万全の対応を促す緊急要請を繰り返しました。    そしてクルーズも、寒波が厳しさを増した2月15日に「ステイホーム」と呼び掛けるアピールを出して、関係当局と連絡を密にしてできるだけのことをしたいと「ええカッコしい」をしたのはいいのですが、17日になって、夫人と娘2人の家族連れでヒューストンのブッシュ国際空港に姿を現し、メキシコの国際的な保養地カンクン向けの定期便に乗り込む姿や機内に落ち着く様子を撮影したスマートフォーンの写真がソーシャルメディアを通じて同日夕方にかけて拡散、大騒ぎとなりました。そうこうするうちに、ニューヨーク・タイムズ紙が、ハイディ・クルーズ夫人による、隣人や友人など知人サークルに宛てた「極寒のヒューストンから温暖なカンクンへ避寒旅行に一緒にいかが。リッツ・カールトン・ホテルが一泊309ドルとお安くなっていますよ」との勧誘メールのコピーを入手、特ダネとして伝えて、さらに騒ぎが大きくなりました。    カンクンの最高級ホテルに着いたクルーズ、事態に重大さに愕然としたのか、その日のうちに翌18日午前6時発の最初の便を予約、ヒューストンに戻り、記者団に「休校となった娘たちにせがまれて、引率でカンクンまで行って、戻ってきた」と説明。その後自宅に戻ってからは、「世界で最も偉大な(great)国家の、最も偉大な州であるテキサス州全域で停電した」という大げさな表現で始まる声明を発表、「娘たちのエスコート説」を繰り返しています。夫人のテキストメッセージが示すように、夫婦でイニシアティブをとって計画、予約記録から、当初は週末29日に戻る予定だったことが明らかで、自分の判断ミスを娘たちのせいにするという「throw  girls under the bus」というイディオムを地で行くお粗末さは、各メディアや深夜のテレビ・トークショー番組で「脳死の瞬間」(Brain-Dead Moment)と呼ばれるほどです。    クルーズ夫妻は、ハーバード大学ロースクールや同大ビジネススクールで法務博士、MBAを取得、ホワイトハウスや財務省、通商代表部(USTR)などの政府中枢機関で知り合い結婚したというエリート・カップル。夫人は世銀総裁候補としてドナルド・トランプ大統領のインタビューを受けたこともあり、現在はゴールドマン・サックスのヒューストン駐在幹部です。クルーズ本人は昨年の大統領選でトランプらと指名争い、トランプからは「Lying Ted」(嘘つきテッド)呼ばわりされたものの、選挙戦から退いてからは熱烈なトランプ支持者に変身、今回の大統領選ではあくまで「トランプ勝利」を主張、二回目のトランプ弾劾裁判でも先頭に立って無罪を主張、「トランプ後継者」を意識したスタンドプレーが目立っています。しかし「政治家クルーズ」は仲間の超党派政治家の間では嫌われ者として知られ、前号で触れた共和党有力幹部で、辛口の冗談で知られるリンゼー・グラム上院議員(ノースカロライナ州)は、内輪の集まりで「上院本会議場で仲間の議員がクルーズを殺害したとしても、上院で裁判があれば、有罪とする議員はいないだろう」と述べているほか、ジョン・ベイナー元下院議長なども、2015年のスタンフォード大学でのスピーチで「あんなSOBのヤツとは絶対一緒に仕事をしたくない」と述べたと伝えられており、テッド・クルーズのホワイトハウスへの道は一段と険しくなったようです。  

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    第70回 ワクチン接種の可能性を狙う「Vaccine Chaser」とは?  

    2021年02月09日 アメリカ101

     先週土曜日(2月6日)に新型コロナウイルスの予防ワクチンの第一回接種を受けてきました。ロサンゼルス一帯ではワクチン接種をめぐる情報が氾濫、テレビや新聞ではドジャー球場での長蛇のクルマの行列や、POD(Point of Dispensary、注射拠点)で長時間座りこんで順番待ちをする人々の様子が映像や写真入りで伝えられるという混乱した状況からすると、「受けることができました」という安堵の表現にすべきでしょうか。カリフォルニア州での、医療従事者や長期介護施設収容の高齢者など、優先順位が高い人々が対象の接種開始からほぼ2カ月が経過しますが、「だれでも接種のプロセスを理解できて、簡単に、そして速やかに予約を済ませて接種できる」といった段階に至っておらず、州政府公衆衛生当局から個々のPODでの指示まで情報が錯綜、接種に辿り着いた人はラッキーという有様で、多くの住民に不平等感が強く、スムーズなワクチン接種がフル回転するにはまだ時間がかかりそうです。     筆者の場合は、メディケアを通じた大手HMO(Health Maintenance Organization、健康保険組合)のメンバーであるため、そのホームページでワクチン接種プロセス指示に従い日時を予約、指定PODに当日出向いて、そこで接種という極めて簡単なものでした。所属するHMOでは、手元のワクチン供給が限定的ということで、カリフォルニア州全体では現時点では一般の人については65歳以上が“有資格者”ですが、このHMOでは75歳以上が対象で、クルマで10分ほどのPODで1週間後の午後3時の予約がとれました。当日は定刻15分前に到着、長い列なしに流れ作業の要領で、注射を終え、15分間の「反応判定待機」を含めて1時間少々で終了、1カ月後の2回目の接種カードと10ページほどの説明書類を手にしてPODを後にしました。     しかし、ロサンゼルス郡当局が管理する不特定多数向けのワクチン接種予約は、主としてネットを通じた予約制で、年齢制限、医療従事者の職種などのスクリーン審査を経て、最終的に特定PODでの予約成立となるのですが、コンピューター操作を熟知しなかったり、コンピューターを保持せず、あるいはWifiへのアクセスもないといった低所得者層に人々にとっては、あまりにもハードルが高すぎるという声もあります。そして予約制であれば、長蛇の列はないはずですが、場所によっては正規の予約者の行列に加えて、予約のない人が「待機行列」(Standby Line)をつくり、根気よく待ち続ける光景も珍しくありません。これは、それぞれのPODでの「No Show」(欠席者)が通常10%、多いケースでは20%もあるためで、それを狙って待機する人々です。アメリカで使用しているファイザーおよびモデルナ新型コロナウイルス・ワクチンは低温冷凍で貯蔵・輸送し、使用に先立って解凍、6時間以内に使用せねばならず、保存はきかず、破棄するしかないというデリケートなもののため、その日のうちに使用することで、待機していた人々が接種対象となるため行列をつくっているわけです。さらに配送システムの不備で、必要以上の数量が一カ所のPODに入荷するケースもあり、待機者への“大盤振舞い”もあるようです。     ワクチン接種絡みで「Vaccine Chaser」という新語が生まれています。現在は一般人については64歳以下はワクチン対象外ですが、上記のような待機ラインに加わり、運よく接種を受けられる場合もあるため、可能性の高いPODを狙う「ワクチン追跡者」です。その典型的な例は、ロサンゼルス郡内で貧困世帯が多く、ウイルス感染率や死亡率が高いサウスセントラルで基幹医療機関として位置付けられているケドレン・コミュニティ―・ヘルス・センターで、より裕福なウエストサイドといった域外から高級車で乗り付け、持参したパソコンやスマートフォーンを操作したり、友人とだべり時間を過ごす若者の姿が目立ち、テレビ・新聞報道でひんしゅくをかっていました。   

  • 第69回
ニューサム州知事、「夜の三ツ星レストラン」でイメージダウン

 

 

    第69回 ニューサム州知事、「夜の三ツ星レストラン」でイメージダウン    

    2021年02月02日 アメリカ101

     希代の「お騒がせ大統領」ドナルド・トランプが退陣、歴代最高齢の新大統領ジョー・バイデンが就任して、クレイジーな「政治の季節」が終わりを告げたと思ったら、今度はカリフォルニア州が、新たな政争の渦中にあります。州議会上下両院で自党・民主党議員がいずれも3分の2以上という「スーパー過半数」を制し、また州政府の公選要職のすべてを占めるという寡占・ワンマン体制を確立して、「我が世の春」を満喫するはずの州知事ギャビン・ニューサムですが、知事解任請求のリコール運動(住民投票)という壁に直面、「前途洋々」であるはずの政治家としての将来に影を落としています。最近大手スーパーマーケットやショッピングモールの出入り口で、小さなテーブルを設置、署名集めをしているのが、それです。     カリフォルニア州での州知事リコール運動といえば、2011年に当時のカール・デービス知事(民主)が住民投票の結果解任となり、後任知事にアーノルド・シュワルツェネッガーが選出されたケースがあります。リコールは民主主義の源形態ともいうべき「直接民主主義」の具体例で、住民の間での争点について、その是非を問う住民投票を実施、過半数の賛成があれば、「民意」として行政府首長(知事など)解任や法律無効などの即時履行となる強力な民主主義プロセスです。このため、悪用/乱用を防ぐために高い敷居があるのですが、カリフォルニア州の場合は、「容易な民意反映を可能にする」と理由から、住民投票実施条件が緩やかであるため、さまざまなリコール運動が繰り返されており、票集め運動支援をビジネスとする企業もあるほどです。     ニューサム知事(2019年1月就任)リコール運動は、今回ですでに5回目です。これまでは、本格的に立ち上げるために必要な署名が集まらなかったために、正式なリコール運動とはなりませんでした。しかし今回は、全米最高の税率、死刑制度、ホームレス、不法移民対応などでの失政を理由に、正式なリコール運動となったもので、その後の新型コロナウイルス禍拡大への対応不備があったとする主張や、運動に賛同する富裕層からの大口資金寄付などがあって、運動が勢いをつけていました。     さらにリコール運動を加速させているのが、「夜の銀座」ならぬ「夜の三ツ星レストラン」エピソードです。日本では、「不要不急の外出自粛」呼び掛けにも関わらず政府・与党の自民党・公明党幹部4人が深夜まで銀座のクラブを訪れていたことで議員辞職や離党となり政界は大騒ぎですが、カリフォルニア州でも、「アメリカでも最も予約が困難なミシュラン三ツ星レストラン」として有名なナパバレーの「フレンチ・ランドリー」で、ニューサムが政治コンサルタントの誕生パーティーにそれぞれの夫婦連れで出席、マスク無しで盛り上がっていたことが明らかになり、面目丸つぶれとなりました。基本となる9コースで一人当たり300ドル、追加料理やワインで合計で軽く500ドルオーバーという超高級レストランでの優雅な一夜が、リコール運動に追い風となったせいか、1月末までに集まった署名は120万に達しました。住民投票実施には有権者総数の12%、145万が必要で、期限は3月17日です。署名はダブリがないか、有資格者の署名かなどを州政府が精査し、有効数に達すれば、住民投票実施の費用計算などのプロセスを経て、投票日程が決まります。運動主催者側によると、うまくいけば今年8月ごろに実施とのことですが、署名運動にはQアノンなどの極右政治勢力の関与が伝えられるほか、リコール運動に詳しい専門家によると、署名集めの流れや無効署名の比率などを勘案すると、期限までの署名達成には多く難関があるとのことです。いずれにせよ、カリフォルニア州では共和党が上げ潮にあるとみられており、来年秋の中間選挙でも一段の追い上げも予想され、ニューサム知事にとって悩ましい「政治の季節」ではあります。  

  • 第68回  
バイデン大統領就任式を“読む”

 

    第68回   バイデン大統領就任式を“読む”  

    2021年01月26日 アメリカ101

     アメリカの第46代大統領ジョー・バイデンの就任式が1月20日、首都ワシントンの連邦議会議事堂前の特設演壇で行われました。前任者ドナルド・トランプの呼び掛けで選挙無効を主張する暴徒が議事堂内に乱入、死者5人を出すという不祥事の直後とあって、2万5千人の州兵を動員する厳重な警戒態勢での開催となり、しかも新型コロナウイルス禍での式典とあって、規模を大幅に縮小したもので、緊張感が溢れる厳粛な雰囲気ながらも、ボリュームのある深紅のスカート姿のレディー・ガガや白一色のドレスを着たジェニファー・ロペス、カウボーイハットをかぶったカジュアルな服装のガース・ブルックスの国歌「星条旗」や愛国歌、賛美歌の歌唱が華を添えて、いかにもアメリカらしいリラックスした、そして華麗なものでした。そこで今回のコラムは、それにまつわるいくつかの話題です。     まず就任式そのものですが、厳密には別に式典をあげる必要はありません。合衆国憲法では、新大統領就任については第2条第1節8項で、「その職務遂行に先立って、次の宣誓または確約をしなければならない」として、その宣誓文を記しており、就任そのものについては、修正第20条で「(大統領の任期は(該当年の)1月20日の正午に終わり、(中略)後任者の任期は上記の日時に始まるものとする」との規定があるだけで、就任式典については一切触れていません。初代大統領ジョージ・ワシントンの就任式は1789年4月に、現在のニューヨーク証券取引所(NYSE)の筋向いにあるフェデラル・ホールで行われていますが、極端に言えば、以上2つの条件を満たせばいいわけです。例えばジョン・F・ケネディのように、現職大統領が暗殺されたといった緊急事態では、速やかに後任者の就任宣誓が必要になるわけで、ケネディの場合は、ダラス空港で、遺体を運んで首都ワシントンに戻る大統領専用機内で、出発直前に副大統領だったリンドン・ジョンソンが宣誓を済ませて就任しています。もちろん、その後の国葬行事が最優先で、就任式はなしでした。     「1月20日正午」を期して政権交代という憲法規定も、就任式の運び次第では、「いくぶんの分秒の誤差は気にしない」というアメリカ流の“アバウト”な一面が現出します。今回の就任式でも、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官の先導でバイデンが宣誓文言を口にしたのは、正確には午前11時47分ということで、本来より13分早めに大統領に就任していますが、メディアを含めて、ことさら言あげするような向きはありませんでした。     就任式を取材するについて、平均的な日本人記者が苦労するのが、新大統領が、その意気込みを語る最初の機会であり、新政権の方向性を探るうえで注目される就任演説に関する報道です。それというのも、通常30分前後の就任演説で、信仰、とくにキリスト教に関連した言及がかならずあるのですが、よほどの信者か専門に勉強したことのある記者でなければ、その出典や意味/意義がつかみにくいからです。今回もバイデンが敬虔なカトリック教徒であるためか、2カ所で言及がありました。     就任式の“余興”として招かれた人気歌手のうちで、関心を集めたのは、トランプ・ファンが多いというカントリーミュージックの大御所ガース・ブルックスが讃美歌「アメイジング・グレイス」(Amazing Grace)を歌ったことです。トランプ就任式には、「スケジュールが合わない」との理由で断ったのですが、今回はジル・バイデンの熱心な招きで出演したとのこと。ファーストレディの幅広い人脈の一端を物語るもので、トランプ時代で先鋭化したアメリカでの政治対立/分割を少しでも埋めようとするバイデン政権の意気込みがうかがえるものとしてメディアが注視していました。     

  • 第67回
史上最悪のアメリカ大統領

 

    第67回 史上最悪のアメリカ大統領  

    2021年01月19日 アメリカ101

     中国の古典「晋書」が出典のようですが、「棺を蓋いて事定まる」という故事ことわざがあります。「人間の評価は最終的には死んだ後にはじめて定まる」といった“人間の知恵”なのでしょうが、それにしても、あまりにも「定まる」スピードの速さには驚きます。「それだけ“証拠”がありすぎる」ということでしょうか。1月20日のジョー・バイデン大統領就任式をもって「前大統領」となったドナルド・J・トランプのことです。そして「定まった」のは、「アメリカ歴史で最悪の大統領」という評価です。アメリカの大統領は初代ジョージ・ワシントン以来44人を数え、トランプは第45代(グローバー・クリーブランドが4年間を置いて第22代、第24代)ですが、就任からわずか1年後の2018年初めに実施され権威ある「大統領ランキング調査」で早々と最下位でデビュー、その後もさまざまな調査でも最下位、あるいは南北戦争を防げなかったジェームス・ブキャナンン(第15代)と並んで「最悪」のタイトルを競い、今年1月6日の連邦議会議事堂乱入事件と、その後の下院での2回目の弾劾訴追という“追い風”で「ダメ大統領」の烙印を押されてホワイトハウスを去ることになりました。     アメリカ人の「ランキング好き」は、何事にも黒白をつけて、灰色のままで放置できず、はっきりと格付けをしないと収まらないとか、競争で決着を付けるといった国民性を反映したものか、あるいは、その思考での創造性、さらには世界一のメディア先進国としての進取の精神によるものかははっきりしません。しかし、「大統領ランキング」のように知的好奇心をかきたてる“余興”としての面白さや、経済活動や金融市場取引の指標として欠かせない債券格付けといったカネにまつわるランキングまで、ランキングがアメリカ人を惹きつけてきたことは間違いありません。     「歴代大統領ランキング」がメディアで定期的に話題になるのは、報道写真重視の伝説的な週刊誌ライフが1948年11月1日号に掲載した記事が嚆矢です。アメリカ史の大御所で、ハーバード大学教授だったアーサー・シュレシンジャー・シニアが主宰、55人の歴史・政治学者を対象に実施した歴代大統領のランク調査結果についての記事で,トップ3には南北戦争を勝利に導いたエイブラハム・リンカーン(第16代)、「建国の父」ジョージ・ワシントン(初代)、1930年代の大恐慌および第二次世界大戦を通じて指導者だったフランクリン・F・ルーズベルト(32代)が選ばれ、現在に至るまでも、さまざまな同様の調査では順位は入れ替わるものの、これら3人は「不動のトップ3人組」として君臨しています。     近年このランキングで重視されているのは、アメリカ政治学学会(APSA)とシエナ大学研究所大統領専門家グループの調査ですが、いずれもトランプ政権誕生2年目を迎えた2018年初頭に調査結果を発表しています。このうちトランプはAPSA調査で44位の最下位、シエナ大学調査では42位(最下位は暗殺されたリンカーンの後継者ながら、黒人奴隷解放で逆コースを採用、弾劾訴追されたアンドルー・ジョンソンで、43位はブキャナン)でした。トランプがわずか就任1年でワースト・グループ入りとなった最大の要因は、移民規制優先など内向きの政策に加えて、誠実さや知性といった面で大統領としての資質を欠く点がマイナスになったようです。その後も、景気拡大の持続、雇用拡大による失業率下落といった経済面での業績があったものの、ロシア疑惑やウクライナ疑惑に伴う議会での弾劾訴追、人種差別的言動、新型コロナウイルス禍への対応不備など悪材料が重なりました。そして任期最後にかけては、確固とした証拠を示すことなく、昨年11月の大統領選挙を繰り返し不正選挙と決めつけ、連邦議会への暴徒乱入を教唆するといった極端な発言による、前例のない2回目の弾劾訴追が「史上最悪のアメリカ大統領」の座へのダメ押しとなったのが「トランプのホワイトハウス最後の日々」でした。