連載・コラム アメリカ101

編集: Weekly LALALA - 2021年01月05日

第65回
新型コロナ、年内集団免疫実現の可能性

 

  ロサンゼルス一帯での新型コロナウイルス感染拡大が続いています。3月中旬にピークに達し、全米に先駆けて自宅待機令(Stay-at-Home)が発令されたあと、拡大に歯止めがかかったのを受けて5月から段階的に解除となり、経済活動が戻りつつあったのですが、その後、「コロナ疲れ」でガードが下がったためか、感謝祭、年末のホリデーシーズンを迎えて「クリスマス大波(Surge)」が襲いつつあります。ギャビン・ニューサム州知事は12月6日に南カリフォルニアを対象に再び自宅待機令を発動したものの、拡大の勢いは衰えず、29日に、少なくとも1月16日まで再延長となっているのが現状です。ワクチン接種が始まっていますが、まだ限られた範囲であり、感染抑え込みのカギである「集団免疫」(herd immunity)実現は、早ければ今年の夏の終わりから秋にかけてというのが大方の見通しです。しかし接種開始以来3週間の接種ペースは、ドナルド・トランプ大統領が喧伝した連邦政府の接種行程計「ワープ・スピード計画」(Operation Warp Speed)の10%にも満たない有様で、コロナウイルス対策で後手後手に回ったトランプ政権の失策ぶりを改めて示すものとなっています。 

 

 ホリデーシーズンでの感染拡大は予想されていたのですが、1月2日現在ロサンゼルス郡での感染者累計は80万人を突破、うち半数の40万人は12月1日以降の感染者であり、また死者も1万人に達し、うち12月1日以降だけで3千人という、これまでにない加速的な増加ペースです。自宅待機令を遵守すれば、間違いなく感染拡大を防ぐことが可能なわけですが、実際には不特定多数の人々が集うケースが後を絶たないのが現実です。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、大みそか当日に市警(LAPD)や郡保安局(シェリフ)は合計13のイベントを強制的に解散させたとのことです。とくにダウンタウンや隣接地域では全部で2千人以上が参加する8カ所のパーティーが予定されていたとのことです。これらの集まりは、主催者が摘発を回避するため、ソーシャル・メディア(SNS)を通じて開催場所を特定せず、大まかな地区を指定、集ってきた人々の間での口コミで会場へ誘導するといった仕組みを採用しており、この種の集まりが感染クラスターとなる可能性が高いとみられています。 

 

 感染拡大阻止の絶対的な決め手がない状況で、唯一の「頼みの綱」はワクチン接種です。トランプ政権はワクチン開発から配布、そして接種までの手順を総括した「ワープ・スピード計画」を策定、それに沿って年内には2千万人への接種を終えると公約していましたが、1月3日現在では第一回接種を終えたのはわずか433万人にとどまっています。接種の遅れは開始当初から指摘されており、ジョー・バイデン次期大統領もスピードアップを訴えていますが、トランプは年末に「州政府への配布は順調だ。あとは州政府次第だ。しっかりやってくれ」とツイッターし、州政府の責任だとしています。だが各州政府との連携が円滑に行わわれていないのが隘路となっているようで、ニューサム知事によると、年末時点でカリフォルニア州が受け取ったのは30万回分のワクチンにとどまっているとのこと。 

 

 感染拡大抑制の決め手となるのは集団免疫の実現です。「ある集団で、多くの人が特定の疾患に対して免疫力を持つと、その疾患にかかった人が外部から集団に入ってきても疾患拡大を防ぐことができる」ことを意味する医学用語。その疾患の感染力いかんで集団免疫の「敷居」が違いますが、新型コロナウイルスの場合は85%程度の接種率が必要だとみられています。どの程度速やかに接種が進むかで集団免疫の時期が推定できるわけですが、「ワープ・スタート計画」に基づく接種ペースからすると、アメリカでは今年初夏に兆候が現出、夏の終りから初秋にかけて実現するとされていますが、当初の出遅れを取り戻すのが前提であり、「アメリカでは年内の集団免疫実現」というのが無難な見通しでしょうか。 


 

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  • 第67回
史上最悪のアメリカ大統領

 

    第67回 史上最悪のアメリカ大統領  

    2021年01月19日 アメリカ101

     中国の古典「晋書」が出典のようですが、「棺を蓋いて事定まる」という故事ことわざがあります。「人間の評価は最終的には死んだ後にはじめて定まる」といった“人間の知恵”なのでしょうが、それにしても、あまりにも「定まる」スピードの速さには驚きます。「それだけ“証拠”がありすぎる」ということでしょうか。1月20日のジョー・バイデン大統領就任式をもって「前大統領」となったドナルド・J・トランプのことです。そして「定まった」のは、「アメリカ歴史で最悪の大統領」という評価です。アメリカの大統領は初代ジョージ・ワシントン以来44人を数え、トランプは第45代(グローバー・クリーブランドが4年間を置いて第22代、第24代)ですが、就任からわずか1年後の2018年初めに実施され権威ある「大統領ランキング調査」で早々と最下位でデビュー、その後もさまざまな調査でも最下位、あるいは南北戦争を防げなかったジェームス・ブキャナンン(第15代)と並んで「最悪」のタイトルを競い、今年1月6日の連邦議会議事堂乱入事件と、その後の下院での2回目の弾劾訴追という“追い風”で「ダメ大統領」の烙印を押されてホワイトハウスを去ることになりました。     アメリカ人の「ランキング好き」は、何事にも黒白をつけて、灰色のままで放置できず、はっきりと格付けをしないと収まらないとか、競争で決着を付けるといった国民性を反映したものか、あるいは、その思考での創造性、さらには世界一のメディア先進国としての進取の精神によるものかははっきりしません。しかし、「大統領ランキング」のように知的好奇心をかきたてる“余興”としての面白さや、経済活動や金融市場取引の指標として欠かせない債券格付けといったカネにまつわるランキングまで、ランキングがアメリカ人を惹きつけてきたことは間違いありません。     「歴代大統領ランキング」がメディアで定期的に話題になるのは、報道写真重視の伝説的な週刊誌ライフが1948年11月1日号に掲載した記事が嚆矢です。アメリカ史の大御所で、ハーバード大学教授だったアーサー・シュレシンジャー・シニアが主宰、55人の歴史・政治学者を対象に実施した歴代大統領のランク調査結果についての記事で,トップ3には南北戦争を勝利に導いたエイブラハム・リンカーン(第16代)、「建国の父」ジョージ・ワシントン(初代)、1930年代の大恐慌および第二次世界大戦を通じて指導者だったフランクリン・F・ルーズベルト(32代)が選ばれ、現在に至るまでも、さまざまな同様の調査では順位は入れ替わるものの、これら3人は「不動のトップ3人組」として君臨しています。     近年このランキングで重視されているのは、アメリカ政治学学会(APSA)とシエナ大学研究所大統領専門家グループの調査ですが、いずれもトランプ政権誕生2年目を迎えた2018年初頭に調査結果を発表しています。このうちトランプはAPSA調査で44位の最下位、シエナ大学調査では42位(最下位は暗殺されたリンカーンの後継者ながら、黒人奴隷解放で逆コースを採用、弾劾訴追されたアンドルー・ジョンソンで、43位はブキャナン)でした。トランプがわずか就任1年でワースト・グループ入りとなった最大の要因は、移民規制優先など内向きの政策に加えて、誠実さや知性といった面で大統領としての資質を欠く点がマイナスになったようです。その後も、景気拡大の持続、雇用拡大による失業率下落といった経済面での業績があったものの、ロシア疑惑やウクライナ疑惑に伴う議会での弾劾訴追、人種差別的言動、新型コロナウイルス禍への対応不備など悪材料が重なりました。そして任期最後にかけては、確固とした証拠を示すことなく、昨年11月の大統領選挙を繰り返し不正選挙と決めつけ、連邦議会への暴徒乱入を教唆するといった極端な発言による、前例のない2回目の弾劾訴追が「史上最悪のアメリカ大統領」の座へのダメ押しとなったのが「トランプのホワイトハウス最後の日々」でした。     

  • 第66回
トミー・ラソーダとロサンゼルス・ドジャース

    第66回 トミー・ラソーダとロサンゼルス・ドジャース

    2021年01月12日 アメリカ101

     トミー・ラソーダが1月6日夜、フラトンの自宅で心肺停止となり病院に搬送されたものの、死去が確認されました。93歳でした。本来なら、「氏」とか「さん」といった敬称をつけるべきでしょが、形式を重んじることなく、そのあけっぴろげで陽気な人柄で知られ、メディアとの対応では禁止語のFワードを乱発する型破りの「ロサンゼルス・ドジャースの顔」だっただけに、どうでもいいと言うでしょうから、「敬称略」とします。     ラソーダは1976年から1996年までの21シーズン監督だっただけでなく、ニューヨークが本拠地だった「ブルックリン・ドジャーズ」時代を含めて70年以上ドジャース・ファミリーのメンバーであり、さらには1958年にロサンゼルスに本拠地(フランチャイズ)を移したあと、監督としてナショナル・リーグ優勝4回、ワールド・シリーズ2回制覇を成し遂げて、ロサンゼルスを象徴するようなアイコン(英語でicon、日本語では「イコン」と表記)だっただけに、ダウンタウンの市庁舎やステープルズセンターなどの建物がドジャー・ブルーのイルミ―ネーションで彩られ、その死を悼む声が相次ぎました。     このコラムでは昨年1月10日号(第14回)で「世界のスポーツ首都」としてのロサンゼルスを取り上げましたが、ラソーダはそのイメージ構築に大きく貢献したのは間違いありません。そして、なによりも日本人にとっては、近鉄から移籍した野茂英雄投手のドジャース入団、そして、その活躍を通じて、その「恩師」としてメジャーリーグ(MBL)を身近なものとした影の立役者と言っても過言ではないでしょう。監督在任中には、野茂投手に加え、2回にわたりチーム・メートだったマイク・ピアッツァ捕手、すい星のようなデビューを飾ったメキシコ出身のフェルナンド・バレンズエラ投手など9人を新人王として輩出、「満足して育てられた乳牛からは、より多くの牛乳が取れる」「選手を人間として扱うなら、彼らはスーパーマンのように働く」といった信念で、選手養成に手腕を発揮しました。     監督通算で1599勝439敗、勝率.526という成績で、1997年には野球殿堂入りを果たしており、「オレのカラダにはドジャー・ブルーの血が流れている」という名言で知られ、そんな根っからのドジャース好きとあって、通常ならハードなスケジュールとなり、選手や監督が嫌うダブルヘッダー試合でも、「それだけ長くユニフォームを着られるから好きだ」というラソーダ語録を残しています。その「ロサンゼルスのアイコンぶり」を象徴するように、地元ロサンゼルス・タイムズ紙は9日付の紙面で、スポーツ欄に「ラソーダ特集」を5㌻にわたり掲載していました。また、現在もまだ熱心な「ブルックリン・ドジャース」ファンがいるニューヨークの代表的な高級紙ニューヨーク・タイムズも、スポーツ欄で2ページ全面を使って「ラソーダ特集」を組んでいます。その見出しは「Tommy Lasorda, 93, a Dodger From Cleats to Cap, Dies」となっていて、さしずめ「足のスバイクから頭のてっぺんの野球帽までドジャー人間(a Dodger)だったトミー・ラソーダが死去、93歳だった」というわけでしょう。「ドジャー」の集合名詞が「ドジャース」ですが、単数の「ドジャー」(日本語では「ドッジャー」と表記したほうがいいのでしょうが)とは、20世紀初頭のブルックリン市街地で行き交う路面電車を「身でかわす(dodge)」市民が多かったといいう場所柄を踏まえたものでした。日本の小学校での体育授業で取り入れられた「ドッジボール」も、このdedgeに由来します。高校時代には好投手として鳴らしたラソーダですが、「ブルックリン・ドジャース」での投手デビュー(1954年)は初回3打者に対して、いずれもワイルドピッチで即降板という散々な結果で、ドジャーとして2シーズンで13イニング投げて勝敗ゼロでトレードとなっています。スカウト、コーチ、そして監督に転身してからは、水を得た魚のように充実し人生を享受したのは間違いありません。    

  • 第64回 
ワシントン・ポスト紙の「今年の言葉」


 

    第64回 ワシントン・ポスト紙の「今年の言葉」  

    2020年12月22日 アメリカ101

     「左右を見渡して安全を確認、道路を渡ろうとしたら、潜水艦に轢(ひ)かれたようなもんだ(心は、前代未聞のクレージーな年だったから)」というのが、ワシントン・ポスト紙が選んだ「2020年を総括する表現」のひとつです。予想もしなかった新型コロナウイルス(COVID-19)禍に見舞われて大混乱に陥り、3万人を超える死者を出しただけでなく、11月の大統領選挙をめぐり、疑問の余地なく敗北した現職大統領が「オレが勝利したんだ。フェイク選挙だ」と繰り返し、2021年1月20日の新大統領就任式への出席はおろか、ホワイトハウスからの退去さえ確言しないというアメリカのシュールな異常事態を表すには、こんな突拍子もない言い方しかないということでしょう。    歳の瀬となると恒例の10大ニュースがさまざまなメディアで発表されるのが恒例ですが、近年はもっとパンチが効いた「今年の流行語/新語/ワード(Words)」といった短い言葉でその年を浮き彫りににするのが流行っています。日本では自由国民社の「現代用語の基礎知識」による「新語・流行語大賞」が知られており、今年はウイルス禍に関連した「3密」でした。小池東京都知事が感染拡大防止で呼び掛けた「密閉・密集・密接を回避する」に由来するものですが、以下トップテンの「愛の不時着」「あつ森」「アベノマスク」「フワチャン」などなどと言われると、日本事情に疎くなっている海外在住者にとっては、「?」かもしれません。「流行語大賞」と並んで知名度が高い「一字を選び世相を表す字」である「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会)は「密」だそうです。    アメリカでは、辞書出版のメリアム・ウエブスター(Merriam Webster)社の「Words of the Year」が有名です。オンライン辞書サービスへの検索件数などを資料として選定しているので、「Pandemic」(パンデミック、世界的流行)と順当です。日本では流行語・新語に重点が置かれているため、やや奇抜な選択となるのに対して、米英では特に新語や流行語を重視せず、使い古された言葉でも「その年を表す単語」として選ぶ傾向があり、イギリスのコリンズ英語辞典(Collins English Dictionary)も「Lockdown」(ロックダウン)を選んでいます。    これに対して、今年が「英語にとっても異常事態」という認識で、英語圏全体での英語をカバーするオクスフォード英語辞典(OED=Oxford English Dictionary)を出版するオクスフォード・ラングェッジズは、特定の言葉を選ぶのではなく、「(コロナウイルス禍による)英語への迅速かつ急激なインパクト」に焦点を絞った学術的論文を発表、英語全体の用法に影響を与えた状況を明らかにしています。たとえば「Pandemic」の使用頻度は昨年比で5万7千倍増を記録したほか、1968年に初出の「Coronavirus」は、それまで専門的な医学用語でしかなかったのですが、今年1月にはトランプ大統領絡みの「impeachment」と同水準の使用頻度となり、4月には「time」さえも上回る、「もっとも使用頻度の高い名詞」となるという異常な“単語の動態”ぶりを分析しています。   最初に触れたワシントン・ポスト紙の「今年の言葉」は、「今年を総括する単語あるいはフレーズは?」という設問を読者に投げ掛けて得た答えのひとつです。2千を超える読者からの回答のトップ3は「Exhausting」(疲労困憊)「Lost」(途方にくれて)「Chaotic」(混沌とした)ということで、「Surreal」(シュールな)「Relentless」(容赦ない)「Nightmare」)(悪夢)「Ugh」(あーあ)などと続くと、「そーだね」と納得する「2020年のアメリカ」に相応しい単語でしょう。そして、来年が「Iinvigorating」で「Wnning」で「Orderly」な年になることを願いたいものですが、どうなりますやら・・・。  

  • 第63回 
興隆のテキサス、退潮のカリフォルニア

 

    第63回 興隆のテキサス、退潮のカリフォルニア  

    2020年12月15日 アメリカ101

     チャールズ・ディケンズの「二都物語」のタイトルを借用すれば、さしずめ「二州物語」ということでしょうか。これまでもアメリカで最大の人口を抱えるカリフォルニア州(人口 3951万人)と同2位のテキサス州(同2900万人)のライバル関係が話題になってきたのですが、このところシリコンバレーの有名企業が相次いで本社をテキサス州に移転させたり、巨大工場を同州に建設するといった動きが伝えられ、また世界第二の富豪で、電気自動車( EV)メーカー・テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が生活拠点をロサンゼルスからテキサスに移したことを明らかにするなど、「興隆のテキサス、退潮のカリフォルニア」がひとしきり関心を集めています。     1850年の州昇格以来さまざまな魅力に満ちた「ゴールデン・ステート」(黄金に彩られた州)として自他ともに認める存在だったカリフォルニア州ですが、近年は人口増加が減速 から微減へ、そして各州間の人口動態統計では、他州への純流失が続いており、国勢局によると、2019年には 65万3000人が他州に移住、そのうちテキサス州へは8万2000人と最大です。温暖な気候に加えて、様々な雇用機会、多様性に満ちたコミュニティーなどが魅力でしたが、近年は交通事情や住宅事情の悪化、大気汚染、生計費の高騰などで全般的に住みにくくなっているほか、全米でも最高水準にある個人所得税や法人税も、個人や企業の他州への移転が目立つ背景です。 2014年には北米トヨタ自動車が本社をトーランスからテキサス州プレイノへの移転を発表、話題になりました。移転は、北米全体での企業活動を視野に入れた機能集約、業務の効率化に加え、移転先の不動産価格や賃金水準が安く、さらには個人所得税や法人税が無税といった年ではアップル(本社クパチーノ)が2018 年にテキサス州オースティンに大規模な企業キャンパス建設を発表、金融サービスのチャールズ・シュワブ(本社サンフランシスコ)も2019年に同州オースティン近郊のウェストレークへの本社機能移転を発表しています。     今月に入ってからは、シリコンバレーの「源流企業」であるHP(ヒューレット・パッカード)から分離した企業向けITサービス事業を担当するHPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、本社サンノゼ)がコスト削減のため、2022年までにヒューストン市郊外に新社屋を建設、移転すると発表しました。これを受けて、企業誘致に力を入れているグレッグ・アボット知事は、「HPEのテキサス州移転を大変喜んでいる」と成果を自賛。「これで、HPEを含めてテキサス州にはフォーチュン誌トップ500社のうち50社以上が移転してきている。そのうちヒューストン都市圏内には22社が本社を置いている」とし、①低い税率②当局の規制が妥当な水準③手ごろな住宅コスト④企業に好ましい訴訟環境、などの同州の利点を強調、今後も積極的なカリフォルニア州を含めた各州からの企業誘致活動を展開する意向を明らかにしています。このほかソフト大手オラクルも今月10日に、本社をサンフランシスコ・ベイ・エリアのレッドウッドショアーズからオースティンへ移したと正式発表しました。     さらに企業の移転だけでなく、現在アメリカで最も著名な経営者のひとりであると同時に、個人純資産1570億㌦(16兆4000万㌦)という世界第2位の富豪イーロン・マスク氏が、生活拠点をロサンゼルスからテキサス州に移したことを明らかにしました。電気自動車(EV)メーカー、テスラ(本社パロアルト)CEOで、宇宙開発事業スペースX(本社ホーソーン)も経営する野心的な起業家であり、しかも最近両事業に関連した大型自動車工場や大型ロケット開発施設をテキサス州に建設中という「時の人」だけに、大きく報じられました。サンフランシスコ・ベイエリアのフリーモントにあるテスラ工場はそのままですが、個人所得税ゼロといテキサス州の魅力に抗しきれなかったのかとの声もあります。これについて、ギャビン・ニューサム州知事は「マスクがカリフォルニアを離れることでは懸念していない。州政府はテスラの成功にコミットしている」と述べ、「企業にとってカリフォルニアが最もコスト安とは言えない」としながらも、総体的にビジネス環境は良好で、企業の「テキサス・シフト」は心配していないと言うものの、「二州物語」はまだまだ続きそうです。  

  • 第62回 

トランプ大統領 2024年大統領選挙

再出馬への本気度

    第62回 トランプ大統領 2024年大統領選挙 再出馬への本気度

    2020年12月08日 アメリカ101

     11月3日の大統領選挙投票日を経て一段落と思われていたアメリカでの政治状況ですが、依然不透明な先行きで、来年1月20日のジョー・バイデン新大統領就任式まで、新型コロナウイルス禍の再燃もあって、紆余曲折がある“不安な日々”が続きそうです。最大の不確実要因は、投票日から一カ月以上が経過、各州での大統領選の公式開票結果が相次いで確定、バイデンの当選が疑問の余地がない段階にあるものの、依然としてドナルド・トランプ大統領が敗北を認めず、根拠のない不正選挙呼ばわりを続けている中で、どのような“幕引き”を考えているかが不明なことです。バイデンが正式にアメリカの第46代大統領となるのは間違いありませんが、トランプが伝統に沿って参列するのか、それとも「不正選挙」を理由にボイコットするのか、さらに、ここ数週間「2024年大統領選挙再出馬」に言及しているものの、その“本気度”が不明なこと、また側近や家族だけでなく、自分自身も恩赦の対象とするのかなど、さまざまな可能性について考えてみるのが、今回のコラムの狙いです。     トランプが不正選挙呼ばわりをしながら、初めて「再出馬」を考えていると伝えられたのは11月9日でした。それから、12月5日のジョージア州での選挙後初の支持者集会での演説で、「ホワイトハウスは奪回する。必要ないことを願うが、2024年もまた勝つ」と述べるなど、徐々に真剣に再出馬を考えていることが明らかになっています。またロイター通信が、就任式を欠席し、同じ日に再出馬宣言をするつもりだとのトランプの意向を伝えているのも、“本気度”ぶりを示すものでしょう。というのも、トランプは2017年1月20日の就任式当日に、2020年再選に向け、連邦選挙委員会(FEC)に再出馬手続きを済ませているのです。     最終的に再出馬するのかは不明ですが、その公式スタートとなる2024年1月のアイオワ州コーカスまで、「再出馬カード」を手にすることで、敗北した「過去の政治家」ではなく、現役政治家として求心力を維持して共和党を掌握、引き続き影響力を発揮し、資金集めを継続、名誉欲、エゴも満たすといった“一石何鳥”を実現できる妙案なのでしょう。このような運びとなるのかは、まだ時間がかかるでしょう。しかしトランプがマイアミの保有する一大リゾート、マー・ァ・ラゴで、ゴルフ三昧の優雅な引退生活を送るとは考えられません。     そして、差し迫った関心事は、トランプがどれだけの規模の恩赦を実施するかです。連邦憲法第2条「大統領の権限」第2節2項で「大統領は合衆国に対する犯罪で、弾劾で有罪の場合を除いて刑執行延期あるいは恩赦を与える権限を有する」とされており、事実上無制限の恩赦の権限があります。最近では11月25日に、偽証罪で有罪を認めていたトランプ政権で初代の国家安全保障担当大統領補佐官マイケル・フリンが恩赦の対象となっています。2017年の就任式費用流用疑惑をめぐり長女イバンカが事情聴取を受けているなど、トランプ一族に対する司法当局の追及の可能性も指摘されていますが、もちろん親族も恩赦の対象となりますので、事前に就任式までの恩赦できるわけです。さらに前例のない「究極の恩赦」である、「大統領による大統領のため」の“自作自演”恩赦の権限ですが、憲法補正25条に記される「大統領が免職となった場合、副大統領が大統領となる」との条項を援用すれば、トランプがいったん大統領職を遂行不可能になったとして、マイク・ペンス副大統領にポストを譲り、「ペンス大統領代行」がトランプを恩赦することが可能となり、その後トランプが復職するという合法的なシナリオがありうるとの説もあります。依拠する連邦最高裁判例もなく、司法専門家の間でもまちまちな見方があるようで、自身の恩赦に踏み切れば、大規模な倫理論争、法律論争が巻き起こる可能性が高く、「お騒がせ」のトランプ政権らしい幕切れ劇となるでしょう。