連載・コラム アメリカ101

編集: Weekly LALALA - 2020年10月13日

第54回

2016年の大統領選を的中させた
「ファイブサーティエイト」が予想する
2020年大統領選の行方

 

今回のアメリカでの“総選挙”の焦点は、11月3日(火)の投票日を3週間後に控えた時点で、「民主党の“完勝”なるか?」となってきました。ここでの“総選挙”とは、最も注目を集めている大統領選挙に加えて、連邦上下両院、さらには州知事、州議会から教育委員会といったアメリカで同時に実施されるさまざまな選挙を便宜的に総称したものですが、連邦政府レベルでの選挙であるホワイトハウスと連邦議会上下両院の3つの選挙で、共和、民主いずれかの政党が、すべてを制覇することを“完勝”と表現しました。そして、今回の選挙では、過去の世論調査で高い評価を得ている世論調査機関「ファイブサーティエイト」が、ドナルド・トランプ大統領が敗退するだけでなく、与党・共和党が上院で議席過半数を割る少数党に転落する一方、下院では野党・民主党が過半数議席をキープして、「民主党完勝」の確立が63%とする予想を発表、独自の統計操作で高い確率でが選挙結果予想を発表して注目されています。前回の“完勝”ケースは、トランプが率いる共和党が上下両院で過半数の議席をキープしただけでなく、ホワイトハウスを奪回した2016年の選挙です。 

 

 「ファイブサーティエイト」が数ある世論調査機関の中で一目置かれているのは、独自の統計方法論を採用、一般的な世論調査に加えて、党派別支持率、選挙資金、現職かどうか、人口統計、専門家の予想などの要因を勘案して確率を算定する手法が斬新であり、2008年と2012年の大統領選挙で「大統領選挙人区」について、ほぼパーフェクトな党派別内訳を予測して、一般に知られるようになりました。とくに2012年には、民主党のバラク・オバマ上院議員(当時)と共和党のミット・ロムニー・マサチューセッツ州知事(当時)が争ったのですが、投票日当日の朝に「オバマ当選の確率90.9 %」を打ち出す大胆な予想で驚かせました。「538」という数字を名称を採用したのは、創立者ネイト・シルバー氏(42歳)が、大統領選挙の行方を確率で予想するシステムを考案したのを受けたもので、50州プラス首都ワシントンDCの選挙人数が538人であることを意味しています(そして、その過半数である270人以上の選挙人を獲得した候補が当選となります)。シルバーは名門シカゴ大学を卒業、イギリスのスクール・オブ・エコノミクスで学んだ天才的な統計学者で、米メジャーリーグ(MLB)プレーヤーの成績データを解析、個々の選手の活躍ぶりを統計化して知られるようになり、2009年にはニュース週刊誌「タイム」の「世界で最も影響力の’ある100人」に選ばれています。 

 

 2016年の大統領選挙では、大部分の大手世論調査機関が「ヒラリー・クリントン圧勝」を予想して“総ざんげ”する有様で、「538」も例外ではありませんでした。しかし、他社が85%から99%の確率で「クリントン勝利」としたのに対して、「538」は確率71%とし、「トランプ当選の確率は29%」と比較的高い数字を打ち出し、「面目丸つぶれ」を回避した結果となりました。今回は、10月7日に最新の予想として、「大統領選ではバイデンは、圧倒的とは言えないものの、確固とした(solid)リードを保っている」「上院は民主党が過半数確保でいくぶん優位」「下院は92%ないし97%の確率で過半数維持」と予測、連邦政府レベルでの民主党の“完勝”の確率が63%だとして、来年からの“民主党政権”は”医療保険制度改革強化、警察改革、選挙制度改革、さらには首都ワシントンおよびプエルトリコの州昇格などに取り組む糸口をつかむだろうと指摘しました。しかし同時に、世論機関の常套的な「逃げ道」として、共和党が上院で過半数を維持する確率が31%であると強調しており、つまるところは「選挙は水物」という日本での警句を思い出せば、「政治は面白い」ということでしょうか。

 

 


著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ)
通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

 

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政治資金集め? 

カリフォルニア州は大統領選挙のATM

 

    第55回 政治資金集め? カリフォルニア州は大統領選挙のATM  

    2020年10月20日 アメリカ101

      さしずめ「手元不如意で、そそくさと近くのATM(現金自動預け払い機)に駆け足で飛び込んだ」ということでしょうか。投票日まで10日ほどしかない大統領選の終盤とあって、共和党ドナルド・トランプ大統領と民主党ジョー・バイデン前副大統領の両候補にとっては文字通り「いくつ身体があっても足りない」という超多忙の遊説の毎日なのですが、先週末18日に激戦州とされるネバダ州を訪れ、ラスベガスで数千人規模の熱烈な支持者を集めた会場で支持を訴えたあと、オレンジ郡のジョン・ウェイン空港に降り立ち、高級邸宅が立ち並ぶロングビーチにあるリド島(Lido Isle)で開かれた選挙資金集めを目的としたイベントに3時間弱にわたり顔を出したあと、ネバダ州に戻りカーソンシティで遊説をこなしたトランプの1日です。     「カリフォルニア州は大統領選挙のATMだ」と言われます。連邦下院議員53人、連邦上院議員2人で構成される同州の選挙人団ですが、1968年から現在までの半世紀では、前半は一貫して共和党候補が勝利、後半は民主党が勝利というパターンです。共和党のリチャード・ニクソン、ロナルド・レーガン両大統領とも州出身で、カリフォルニアは長年保守色が濃い政治風土でした。しかし近年メキシコ系を中心とするラティーノ人口が急増する一方で、ピート・ウィルソン知事(1991-1999)に象徴されるように共和党が非合法移民を含む移民増へ否定的な対応をとったことで支持者を失い、ラティーノが最多人口を占めるという最近の状況下で、カリフォルニア州は民主党の半永久的な“牙城”へと変身しています。     この結果、ビル・クリントン・アーカンソー州知事が現職のジョージ・H・W・ブッシュ(第41代)を破って当選した1992年の大統領選挙以来、前回2016年選挙まで民主党候補が連続7回勝利しています。それ以降「カリフォルニア州は民主党が圧倒的に有利」が当たり前となり、全米最大の人口を抱えながら大統領選挙では「蚊帳の外」に置かれてしまい、「政治面でのカリフォルニア州の魅力」は政治資金の“豊饒な源”、すなわちATMになったということです。党派を問わず大統領候補は票田としてのカリフォルニア州ではなく、カネ(選挙資金)のために訪れるだけとなっているのを象徴するのが、先週末のトランプのロングビーチ訪問でした。     このところトランプ陣営は選挙資金面で民主党に大きく後れをとっています。連邦選挙委員会(FEC)によると、今年9月中にバイデン陣営は3億8300万ドルを集めたのに対しトランプ側は2億4700万ドル、そして10月現在の手元現金は4億3200万ドル対2億5100万ドルです。この違いが最終的な選挙結果に響くのかははっきりしませんが、トランプ陣営にとっては士気にマイナスの影響を与えるのは間違いありません。バーチャル・リアリティ(VR、仮想現実)ヘッドセット商品化を成し遂げ、弱冠21歳で億万長者となった天才的な少壮発明家/実業家パルマ―・ラッキー氏(28)の邸宅での資金集めイベントでは最低2800㌦、最高レベルなら15万ドルというのが“協賛金”のようですが、集まったおカネの総額は明らかではないものの、トランプ陣営には「shot in the arm」(カンフル剤)にはなったのでしょう。オレンジ郡は1889 年に白人優越主義者が主導してロサンゼルス郡から分離して成立した自治体で、1930年代のニューディール時代以降、19回連続で大統領選では共和党候補が勝利してきた「保守派の岩盤」でした。だが2016年大統領選でヒラリー・クリントン国務長官に得票率で8ポイント差で敗れ、また2018年中間選挙では、郡内の7つの連邦下院議員選挙区で全敗を喫しています。選挙戦終盤でのトランプによる個別候補へのテコ入れ遊説があれば、いくつかの選挙区での議席奪回の可能性が高まったかもしれませんが、「カネ集め」だけの訪問にとどまったことでどうなるか、結論は11月3日に出ます。   

  • 第53回
カリフォルニア州知事 ギャビン・ニューサムは独裁者なのか?
加州とトランプ政権の反目

 

    第53回 カリフォルニア州知事 ギャビン・ニューサムは独裁者なのか? 加州とトランプ政権の反目  

    2020年10月06日 アメリカ101

     「ここ数年、ドナルド・トランプ大統領が独裁者みたいに振舞っているとの批判があるが、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは独裁者そのものだ」「「環境に優しい電気自動車(EV)、電気自動車というけど、クルマのバッテリーが電力を生み出すわけではない!」「猛暑が続いて各地で間欠的な停電が続いたが、このままでは寒い日にも停電になってしまう」「何百万台というEVが一斉に充電したら停電が日常的なものになりかねない」「知事行政命令といった非常措置をとるなら、カリフォルニア州での新型ウイルス禁止令を出すほうがましだ!」などなど。ニューサム知事が9月23日に発表した「15年後の2035年にガソリン駆動乗用車・SUVなどの小型トラックの新規販売を禁止」という行政命令に対する新聞各紙投書欄での懐疑派の言い分あらすじです。州政府レベルでの環境問題への取り組みで先端的な役割を演じるカリフォルニア州の最高指導者らしい、思い切った措置で、環境保護推進派からは高く評価する声があるものの、投書欄にみられる反対論や、自動車業界、石油精製業界など、直接大きな影響を受ける業界では「性急すぎる」という声が強く、「気候変動対策を加速させるために、州政府として採用できる最も影響力のあるステップ」と自賛する同知事に試練が続きます。     知事行政命令という、州議会承認が必要がない思い切った施策ですが、2035年の目標年次までに思い通り進むのか、紆余曲折があるとみられています。当面は、「州内で販売される乗用車・小型トラックは、EVなど排ガスを出さないゼロエミッション車とする」との知事命令に基づいて、州全体の環境行政を担当する「カリフォルニア大気資源局(CARB)」が、どのような規制を設けて実現するための道筋を画定することになります。    しかし現時点では、一般トライバーにとっては、知事命令が出たからといっても、別に影響はありません。たとえば、現在保有しているクルマを、そのまま大事に長年運転するつもりにしていて、期限の2035年になっても廃棄処分にする必要はなく、運転を続けることができるほか、その後も自由に中古車として売買が可能です。     アメリカでの環境保護関連施策は、他の行政分野と同様に、各州の自治権を大幅に認めた連邦国家であるため、各州まちまちとなっており、カリフォルニア州のように最も厳しい規制を採用している州から、連邦政府の最小限の環境基準にとどめる州まで、さまざまです。だが2017年に、環境保護問題に消極的で、経済振興を最優先させるトランプ政権が発足したのに伴い、カリフォルニア州のような“環境先進州”との軋轢が生じています。その典型的なケースは、自動車の排ガス規制をめぐる対立です。「カー・カルチャー」でも知られるカリフォルニア州は、4千万人の人口を抱え、クルマの販売台数や保有数が最も多い「クルマ王国」ですが、自動車の排ガスによる大気汚染が大きな社会問題となってきた経緯から、近年歴代の知事が党派を問わず環境問題に積極的に取り組んできました。そして連邦基準を上回る厳しい独自の燃費・排ガス基準を設定しようとしたのですが、2018年8月にトランプ政権は州による独自の基準を廃止するなどを含む新規案を作成したことで問題がこじれ、訴訟に発展するなど、カリフォルニア州とトランプ政権の反目は強まる一方です。      トランプ政権のウィーラー環境保護局(EPA)長官は、2025年からのゼロエミッション計画について、「合法性や実現性で深刻な疑問生じる」(ロイター時事)とし、EV普及で電力需要増加が予想される中、今年8月の猛暑などの要因による「計画停電は前代未聞の規模だった」と指摘、ニューサム知事のEV加速施策に疑問を呈していますが・・・。        著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。  

  • 第52回
トランプの歴史的大英断
保守派として最適任の女性法律家を指名

 

    第52回 トランプの歴史的大英断 保守派として最適任の女性法律家を指名  

    2020年09月29日 アメリカ101

    「1カ月早いオクトーバー・サプライズだ」とされた、連邦最高裁判所(SCOTUS)で最もリベラル派のルース・ベーダ―・ギンズバーグ判事の死去(9月18日)が昔話のように感じられるほどの、ここ数週間の大統領選挙をめぐる目まぐるし動きが続いていますが、これから1カ月の「本当の驚愕の10月」、そして、その後の新たなサプライズがどんなものとなるのか恐ろしいほどです。     共和党と民主党の間では、大統領選挙の渦中に最高裁判事ポストに欠員が生じた場合、民意を反映するため、再選あるいは新たに選ばれた大統領と新しい構成の上院による指名/審理・承認のプロセスを進めるとの緩いコンセンサスが2016年に生まれました。それというのも、翌年1月に任期切れとなるバラク・オバマ大統領の後任を選ぶ大統領選挙中の同年2月13日に、最高裁で長年保守派の重鎮として影響力を発揮していたアントニン・スカリア判事が死去するという、今回と同様な状況が生じたのですが、結果的には、大統領による後任判事の指名および上院による審議/承認は、11月の総選挙(大統領・上下両院議員選挙)のあとに実施することになった“前例”ができたからです。    当時も現在同様に上院では共和党議員が過半数を占め、オバマ政権と対峙していたのですが、その指導者ミッチ・マコネル上院内総務はスカリア死去と同じ日に、オバマが誰を後任判事に指名しようとも、上院での審議/承認プロセスには一切応じないとボイコット声明を発表、すべては新大統領と新しい構成の上院に委ねるべきだとの態度を明らかにしました。しかしオバマは合衆国憲法の規定に基づくものとして、後任判事に中道・穏健派をされるメリク・ガーランド連邦高裁判事を指名したものの、共和党側はマコネルの意向で、承認に向けた公聴会/審議を一切拒否した結果、指名人事は293日間棚ざらしとなったあと無効になりました。年が明けて、共和党のドナルド・トランプ新大統領が2017年1月末に、保守派として定評のあるニール・ゴーサッチ連邦高裁判事を指名、上院多数派共和党の承認を経てスカリアの後任に就任、さらには2018年6月には中間派とされてきたアンソニー・ケネディ判事が引退したのを受けて、トランプは後任に保守派として知られるフレッド・カバナー連邦高裁判事を指名、議会の承認を取り付け、最高裁のイデオロギー色を鮮明に保守寄りに固めたわけです。     トランプにとって3人目となる最高裁判事指名人事は、2016年の大統領選挙での最重要公約の仕上げとなるものです。公約としては「メキシコ国境での壁構築」「医療制度改革法(オバマケア)の改廃」「大幅減税」などがありましたが、ギンズバーグの後任に「保守派として最適任の女性法律家(lawyer)」エイミー・バレット連邦高裁判事(48歳)を指名(10月24日)することで、今後の上院での承認を経て、「最高裁の脱リベラル化/保守化」への道筋を確実にしたわけです。共和党の中核的保守派は、これが数十年にわたるアメリカの国家としての方向性を左右する決め手となるとして、「合法であればなんでもあり」との判断で、後任指名がトランプの歴史的大英断としてもろ手を挙げての大賛成になりました。     2016年の前例を反故にされ、「マコネルにしてやられた」とみる民主党側は、「あらゆる手段を尽くして反対する」(チャック・シューマー上院院内総務)として全面抗戦の構えを強めており、今後の上院でのバレット指名人事審理(10月12日から)、大統領選を含む総選挙投開票(11月3日)、大統領選挙人による投票(12月14日)、連邦議会での選挙人投票の開票/当選者確定(1月6日)、就任式(1月20日)といった節目を中心とした「サプライズ」はまだまだ続く見通しです。      著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。      

  • 第51回
ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事死去
どうなる? 人工妊娠中絶や人種問題

 

    第51回 ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事死去 どうなる? 人工妊娠中絶や人種問題  

    2020年09月25日 アメリカ101

    とにかく「大変な事態」であり、「国難」であるのは間違いありません。 アメリカの連邦最高裁判所判事9人のうち最もリベラルな立場を貫き、人権問題、とくに女性の地位向上で指導的な役割を演じてきたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が長年にわたるがん闘病の末、9月18日に87歳で亡くなったのに伴う、後任判事人事をめぐる共和、民主両党の“政争”が際限なく激しさを増している現状のことです。   11月3日の大統領選挙・上下両院議員選挙を6週間後に控えて、政治に行方の大きな影響力を及ぼし、日本での「憲法の番人」の役割をはるかに超えた存在であるアメリカの最高裁での、少なくとも今後四半世紀ほどにわたる方向性を左右する“争い”がワシントンで展開されています。   日本で最高裁といえば、民主主義の根幹である「三権分立」の一端を担う国権機関ではあるものの、一般的には「遠い存在」で、「一票の重さ」「誤審」などの訴訟で注目を集める程度の認識でしょう。 だがアメリカでは、最高裁の判断次第で人工妊娠中絶、医療制度、銃規制、投票権行使などで、直ちに国民生活のさまざまな分野で影響が生じることから、その挙動への注目度は非常に高くなっています。そして近年党派対立が激しくなる中、死去あるいは退任で空席となった判事ポストをめぐる争いも先鋭化しており、ドナルド・トランプ大統領はギンズバーグ死去に伴い、早々に後任には保守的な判事指名すると公言。 その人事で「助言と同意」を与える権限を有する連邦議会上院の与党・共和党トップ、ミッチ・マコネル院内総務は、大統領の判事指名を受けて直ちに議会審議を開始、11月3日が投票日である「総選挙」の結果いかんにかかわらず、現議会の任期切れ(来年1月3日)までに決着をつけたいと言明、選挙後の新しい政治地図の下での判事指名/審議を主張する野党・民主党に“挑戦状”を突き付けました。   ギンズバーグ死去で最高裁判事のイデオロギー色の内訳は保守派5人、リベラル派3人です。 大雑把に言って、アメリカでは保守、リベラルとも自由重視では共通するものの、広範囲な自由重視の観点での規制緩和、小さな政府、政府介入排除が保守派で、一方大多数の国民にプラスとなる政府介入肯定、少数者·弱者支援重視がリベラル派とされています。 言ってみれば「同じ土俵」での対立なのですが、人工妊娠中絶や人種差別是正、医療保険制度改革法(オバマケア)といった具体案件での先鋭的な対立の判断が最高裁に持ち込まれるために、この色分けが大きな意味を持ってきます。   最高裁判事人事は大統領が候補を指名、上院(定数100人)過半数の賛成で承認、就任となります。トランプやマコネルの強硬突破路線が功を奏すれば、現時点での共和党53人、民主党47人いう党派別内訳からすると、保守派判事がひとりプラスで、保守派6人、リベラル派3人という保守派絶対優位となり、現在原則として合法である人工妊娠中絶に厳しい規制が加えられたり、トランプが目の敵にするオバマケアの骨抜きが可能となるなど、再選を目指すトランプにとって願ってもない追い風となるわけです。   後任人事の先送りを主張する民主党側では、名士選良で構成される「The Most Exclusive Club」(最高のエリート・クラブ、上院の代名詞)の権威にかけても、党派ではなく国益を優先する観点から、共和党上院議員の間での“造反”を呼び掛けています。 すでにリサ・マカウスキ(アラスカ州)、スーザン・コリンズ(メーン州)両議員が延期を主張、トランプ弾劾で賛成票を投じたミット・ロムニー(ユタ州)議員も加われば、50対50の同数となり、上院議長でもあるマイク・ペンス副大統領がキャスティングボート(採決権)行使となる際どい境目です。   このほか、11月3日の特別選挙結果次第では、同月末にはアリゾナ州選出の下院議員が共和党から民主党議員に入れ替わるといったシナリオも想定されており、ギンズバーグ死去の波紋は広がる一方です。(9月21日記)(次号に続く)     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

  • 第五十回 
2020年版Social Progress Indexで
28位のアメリカ 

 

    第五十回 2020年版Social Progress Indexで 28位のアメリカ  

    2020年09月15日 アメリカ101

    アメリカの大統領選挙投票日11月3日まで、あと50日を切るという終盤戦に差し掛かっていますが、「こんな国に誰がした」という視点でアメリカの全体像を見直すというのが今回のコラムの狙いです。  「こんな国」というのはもちろんアメリカのことです。第二次大戦後の世界を「パックス・アメリカーナ」(アメリカが仕切る平和/覇権国家アメリカ)として絶大な影響力を発揮、ソ連(ロシア)との冷戦を勝ち抜き、潜在的な「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を問題なく振り切り、世界で唯一の超大国として政治、経済、文化、スポーツなどのさまざまな分野で「アメリカ・アズ・ナンバーワン」を実現してきました。ところが、新型コロナウイルス禍にあって、ドナルド・トランプ大統領の登場に伴う恒常的な国内での激しい政治面での対立状況が深刻化し、国家の最高権力者を選出するという民主主義国家としてのもっとも大切なプロセスでさえも、正常な投票/開票作業や当選者確定さえ危ぶまれるという可能性に直面しており、今や世界から“哀れみ”さえをもって見守られるという有様にあるアメリカ合衆国です。    アメリカ人にとって「We’re number one!!」という“雄叫び”は、「American psyche」(アメリカン・サイキ=アメリカ人の国民精神)の究極的な発散表現です。大学やプロのスポーツイベントでひいきするチームを応援する際に耳にすることが多いのですが、そんな「アメリカが常に世界一」というパックス・アメリカーナの潜在意識が幻想であるとの統計的な証拠が明らかになり、波紋を呼んでいます。    9月10日付のニューヨーク・タイムズ紙に「We’re No.28! And Dropping!」という見出しのコラムが掲載されました。ニュース・メディアの記者として最高名誉であるピューリッツァー賞を2回受賞し、同紙東京支局長でもあったニコラス・クリストフの手になるもので、近年注目度が高まっている、各国別の「社会としての進歩の度合い」を数量化した「Social Progress INdex」(SPI)報告2020年版で、対象国163か国のうち、アメリカがキプロスやギリシャに次いで28位にとどまったことを取り上げた内容(ちなみに日本は13位で、トップグループ内)。 質の高い大学教育や携帯電話普及度、料理でのクリーン・エネルギー使用度などではトップであるものの、殺人事件や交通事故死は大部分の先進工業国では最下位グループ、基礎教育では全体91位、マイノリティ差別では100位といった惨めな結果だったことを指摘、アメリカが社会として構造的な欠陥を抱えていることを強調するものです。    「国富/国民の豊かさ」を計測するものとしては、GDP(国内総生産)や、一人当たりGDP値や国連補助機関である国連開発計画による人間開発報告書が知られていますが、SPIはノーベル経済学賞受賞者などの助言に沿って、より広範な資料を採集、「社会における人間の進歩」という観点を重視して2011年以来毎年報告を発表しています。そしてアメリカは進歩はおろか、当初19位だったものが徐々に低下、最新版では、全体の数値が後退したのはブラジルとハンガリーの3カ国だけで、しかも下げ幅がアメリカが最悪という惨めな結果です。    今回の選挙戦では、トランプがさまざまな政策面での失政や無関心を責める、現職への風当たりが厳しいですが、SPI報告での「アメリカの後退」は最初から一貫して続いており、この間大統領のポストにあった民主、共和両党の歴代大統領(42代ビル・クリントン、43代ジョージ・W・ブッシュ、44代バラク・オバマ)も、責任の一端を担うのは当然という見方もあるわけで、「後退/衰退」が必ずしもひとりの政治家に起因するわけではなく、アメリカ国民全体が幅広い視野で取り組むべき課題であることを物語るものと言えます。       著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。