連載・コラム アメリカ101

編集: Weekly LALALA - 2020年09月08日

第四十九回
「大阪なおみが世界に発信。
『NAOMI OSAKA, POWER PLAYER』」

 

 

大坂なおみ選手の“快進撃”“疾走”が続いています。9月13日までの日程でニューヨーク市クイーンズ区にある「USTA(全米テニス協会)ビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センター」で開催中のUSオープンで、6日の女子シングルス4回戦で快勝、準決勝にコマを進めました。世界のテニス4大大会で最大の観客動員数を誇り、ニューヨークの夏の風物詩ともなっているイベントで、2年ぶりの優勝が視野に入ってきました。

 

今大会に先立つツアー大会で、BLM(黒人の命は大切)として棄権するという「場外行動」で注目された大坂ですが、本来のスポーツ選手としてではなく、それ以外の分野での「話題の主」となっていることを象徴するように、9月5日付の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル添付の月刊誌「WSJ.」の表紙に、バラの花が咲き誇る庭の一角で、お値段が4,500㌦という白地のシャネル・コートを羽織った写真で「NAOMI OSAKA, POWER PLAYER」として登場して注目を浴びています。 

 

力強いグラウンドストロークやバックハンドが得意なパワフルな選手であると同時に、BLM運動やファッション界にも一石も二石も波紋を投じるという「パワー・プレイヤー」という意味合いが含まれたタイトルのようです。

 

同誌とのインタビューで大坂は、「貴女のことで、人々が最も覚えていて欲しいことは?」との質問に、「もちろんテニス選手としてのキャリアですが、同時に重要なことは、わたしがコート以外のところで成し遂げたことです」と述べ、「わたしはBLM運動に強い思いを抱いています」として、人種差別問題がライフワークであることを示唆しています。 

 

そして、人種問題に限らず、世の中にさまざまな差別が存在し、その是正に努力した人々が存在したことを示すのが、マンハッタンからラガーディア空港に行く途中にあるUSオープンの会場です。

 

この一帯では1964年ニューヨーク万博の会場だったところで、現在の正式名称は、このコラムの頭に記した長いものですが、1978年にナショナル・テニス・センター(NTC)としてオープンした当時は、万博当時にルイ・アームストロング野外音楽堂を改装したスペースが当時のセンターコートでした。愛称「サッチモ」が会場近くのクイーンズ区コロナに長年住んでいたことに因み名付けられてもので、現在の姿となった大改装後も踏襲しており、黒人ジャズ演奏家として、人種差別の壁を崩す上で地道な存在感を示した功績を評価する狙いがあります。 

 

会場全体の“冠名称”である「ビリー・ジーン・キング」は、1060年代から1980年初頭まで女子テニス界に君臨、「男女の賞金格差」是正に取り組むなど女子選手の地位向上に貢献し、女子テニス協会初代会長としても活躍したレジェンドを記念したものです。

 

キングは後年レズビアンであることを公表し、同性愛者の権利向上にも貢献、2009年には、民間人としては最高の名誉である大統領自由勲章を受領しており、76歳の現在もテニス界のご意見番的存在です。そして世界最大の収容人員2万5千人という現センターコート「アーサー・アッシュ・スタジアム」は、1968年の全米オープン男子シングルスで黒人選手として初めて優勝するなど、ツアー通算47勝をあげたプレーヤーに因んだもの。さらに同スタジアムの前には、黒人差別が当然とされた1950年代に全英、全米選手権女子シングルスでそれぞれ2回優勝するなど、黒人選手として初めて国際的に活躍したアリシア・ギブソンの大理石製の胸像が置かれており、USオープン会場全体が、長年にわたり上流階級のスポーツだったテニス界での、さまざまな差別の壁を突き破った先人たちの功績を称えると同時に、贖罪的な意味もあるのでしょう。ここに何らかの形で「Naomi Osaka」の名前が刻まれるのを期待するのは欲張りすぎでしょうか。 

 

 


著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ)
通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

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    2020年09月22日 アメリカ101

    とにかく「大変な事態」であり、「国難」であるのは間違いありません。アメリカの連邦最高裁判所判事9人のうち最もリベラルな立場を貫き、人権問題、とくに女性の地位向上で指導的な役割を演じてきたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が長年にわたるがん闘病の末、9月18日に87歳で亡くなったのに伴う、後任判事人事をめぐる共和、民主両党の“政争”が際限なく激しさを増している現状のことです。11月3日の大統領選挙・上下両院議員選挙を6週間後に控えて、政治に行方の大きな影響力を及ぼし、日本での「憲法の番人」の役割をはるかに超えた存在であるアメリカの最高裁での、少なくとも今後四半世紀ほどにわたる方向性を左右する“争い”がワシントンで展開されています。     日本で最高裁といえば、民主主義の根幹である「三権分立」の一端を担う国権機関ではあるものの、一般的には「遠い存在」で、「一票の重さ」「誤審」などの訴訟で注目を集める程度の認識でしょう。だがアメリカでは、最高裁の判断次第で人工妊娠中絶、医療制度、銃規制、投票権行使などで、直ちに国民生活のさまざまな分野で影響が生じることから、その挙動への注目度は非常に高くなっています。そして近年党派対立が激しくなる中、死去あるいは退任で空席となった判事ポストをめぐる争いも先鋭化しており、ドナルド・トランプ大統領はギンズバーグ死去に伴い、早々に後任には保守的な判事指名すると公言。その人事で「助言と同意」を与える権限を有する連邦議会上院の与党・共和党トップ、ミッチ・マコネル院内総務は、大統領の判事指名を受けて直ちに議会審議を開始、11月3日が投票日である「総選挙」の結果いかんにかかわらず、現議会の任期切れ(来年1月3日)までに決着をつけたいと言明、選挙後の新しい政治地図の下での判事指名/審議を主張する野党・民主党に“挑戦状”を突き付けました。     ギンズバーグ死去で最高裁判事のイデオロギー色の内訳は保守派5人、リベラル派3人です。大雑把に言って、アメリカでは保守、リベラルとも自由重視では共通するものの、広範囲な自由重視の観点での規制緩和、小さな政府、政府介入排除が保守派で、一方大多数の国民にプラスとなる政府介入肯定、少数者·弱者支援重視がリベラル派とされています。言ってみれば「同じ土俵」での対立なのですが、人工妊娠中絶や人種差別是正、医療保険制度改革法(オバマケア)といった具体案件での先鋭的な対立の判断が最高裁に持ち込まれるために、この色分けが大きな意味を持ってきます。     最高裁判事人事は大統領が候補を指名、上院(定数100人)過半数の賛成で承認、就任となります。トランプやマコネルの強硬突破路線が功を奏すれば、現時点での共和党53人、民主党47人いう党派別内訳からすると、保守派判事がひとりプラスで、保守派6人、リベラル派3人という保守派絶対優位となり、現在原則として合法である人工妊娠中絶に厳しい規制が加えられたり、トランプが目の敵にするオバマケアの骨抜きが可能となるなど、再選を目指すトランプにとって願ってもない追い風となるわけです。後任人事の先送りを主張する民主党側では、名士選良で構成される「The Most Exclusive Club」(最高のエリート・クラブ、上院の代名詞)の権威にかけても、党派ではなく国益を優先する観点から、共和党上院議員の間での“造反”を呼び掛けています。すでにリサ・マカウスキ(アラスカ州)、スーザン・コリンズ(メーン州)両議員が延期を主張、トランプ弾劾で賛成票を投じたミット・ロムニー(ユタ州)議員も加われば、50対50の同数となり、上院議長でもあるマイク・ペンス副大統領がキャスティングボート(採決権)行使となる際どい境目です。このほか、11月3日の特別選挙結果次第では、同月末にはアリゾナ州選出の下院議員が共和党から民主党議員に入れ替わるといったシナリオも想定されており、ギンズバーグ死去の波紋は広がる一方です。 (9月21日記) (次号に続く)   

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    アメリカの大統領選挙投票日11月3日まで、あと50日を切るという終盤戦に差し掛かっていますが、「こんな国に誰がした」という視点でアメリカの全体像を見直すというのが今回のコラムの狙いです。  「こんな国」というのはもちろんアメリカのことです。第二次大戦後の世界を「パックス・アメリカーナ」(アメリカが仕切る平和/覇権国家アメリカ)として絶大な影響力を発揮、ソ連(ロシア)との冷戦を勝ち抜き、潜在的な「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を問題なく振り切り、世界で唯一の超大国として政治、経済、文化、スポーツなどのさまざまな分野で「アメリカ・アズ・ナンバーワン」を実現してきました。ところが、新型コロナウイルス禍にあって、ドナルド・トランプ大統領の登場に伴う恒常的な国内での激しい政治面での対立状況が深刻化し、国家の最高権力者を選出するという民主主義国家としてのもっとも大切なプロセスでさえも、正常な投票/開票作業や当選者確定さえ危ぶまれるという可能性に直面しており、今や世界から“哀れみ”さえをもって見守られるという有様にあるアメリカ合衆国です。    アメリカ人にとって「We’re number one!!」という“雄叫び”は、「American psyche」(アメリカン・サイキ=アメリカ人の国民精神)の究極的な発散表現です。大学やプロのスポーツイベントでひいきするチームを応援する際に耳にすることが多いのですが、そんな「アメリカが常に世界一」というパックス・アメリカーナの潜在意識が幻想であるとの統計的な証拠が明らかになり、波紋を呼んでいます。    9月10日付のニューヨーク・タイムズ紙に「We’re No.28! And Dropping!」という見出しのコラムが掲載されました。ニュース・メディアの記者として最高名誉であるピューリッツァー賞を2回受賞し、同紙東京支局長でもあったニコラス・クリストフの手になるもので、近年注目度が高まっている、各国別の「社会としての進歩の度合い」を数量化した「Social Progress INdex」(SPI)報告2020年版で、対象国163か国のうち、アメリカがキプロスやギリシャに次いで28位にとどまったことを取り上げた内容(ちなみに日本は13位で、トップグループ内)。 質の高い大学教育や携帯電話普及度、料理でのクリーン・エネルギー使用度などではトップであるものの、殺人事件や交通事故死は大部分の先進工業国では最下位グループ、基礎教育では全体91位、マイノリティ差別では100位といった惨めな結果だったことを指摘、アメリカが社会として構造的な欠陥を抱えていることを強調するものです。    「国富/国民の豊かさ」を計測するものとしては、GDP(国内総生産)や、一人当たりGDP値や国連補助機関である国連開発計画による人間開発報告書が知られていますが、SPIはノーベル経済学賞受賞者などの助言に沿って、より広範な資料を採集、「社会における人間の進歩」という観点を重視して2011年以来毎年報告を発表しています。そしてアメリカは進歩はおろか、当初19位だったものが徐々に低下、最新版では、全体の数値が後退したのはブラジルとハンガリーの3カ国だけで、しかも下げ幅がアメリカが最悪という惨めな結果です。    今回の選挙戦では、トランプがさまざまな政策面での失政や無関心を責める、現職への風当たりが厳しいですが、SPI報告での「アメリカの後退」は最初から一貫して続いており、この間大統領のポストにあった民主、共和両党の歴代大統領(42代ビル・クリントン、43代ジョージ・W・ブッシュ、44代バラク・オバマ)も、責任の一端を担うのは当然という見方もあるわけで、「後退/衰退」が必ずしもひとりの政治家に起因するわけではなく、アメリカ国民全体が幅広い視野で取り組むべき課題であることを物語るものと言えます。       著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

  • 第四十八回
BLM運動に深くコミットする
大坂なおみの行動

 

    第四十八回 BLM運動に深くコミットする 大坂なおみの行動  

    2020年09月01日 アメリカ101

     さしずめ、時代劇映画でお馴染みのセリフを拝借すれば、「お主、なかなかできるな。只者ではない」ということでしょうか。テニスのスーパースターであるだけでなく、BLM(黒人の命も大切)運動に深くコミットしている大坂なおみ選手のことです。    大坂は、ウィスコンシン州ケノーシャで8月23日に黒人青年ジェーコブ・ブレークさん(20)が背後から警官の銃撃を受けて重体となった事件で、人種差別に基づく度重なる警官による過剰な対応に抗議するとして、賞金28万5千ドルがかかったウエスタン・アンド・サザン・オープンの女子シングルス準決勝を試合を棄権するという決断を下し、「勇気ある行動」として大きな反響を呼びました。新型コロナウイルス感染拡大で一連のテニスツアーが中止となったあとの久し振りのトーナメントでの好調な滑り出しだっただけに、突然のこととして驚きをもって受け止められたわけです。    長年にわたり議論されてきたのが「スポーツと政治」ですが、「選手はスポーツに専念し、政治的発言は慎むべきだ」「選手といえども一人の人格を有する人間であり、発言は自由だ」という両端の言い分があります。しかし大坂は、同オープン主催者のWTA(女子テニス協会)が発言を受けて大会を一日延期したのを評価、棄権を撤回して準決勝に臨み、勝利したあとの記者会見で、棄権表明後の反響の大きさに「少し怖くなった」としながらも、その判断については「難しかったが、同時に簡単だった」「声を上げる必要があると感じたから、その意味では簡単だった」と述べていました。これは、黒人選手が圧倒的多数を占めるNBA(プロバスケットボール協会)や野球のメジャーリグ(MLB)が相次いで抗議の意思表示として試合延期を決めたのに対して、テニス界ではWTAなどが逡巡する中、その決断を促す意味合いもあったとみられます。そして、これは今回のウィスコンシンでの銃撃事件に特に触発されたわけではなく、BLM(黒人の命は大切)運動に深くコミットしている「公民権活動家」としての大坂選手の一面を示すもので、昨年来交際している新進ラッパー・ソングライター、YBNコーデ―さん(23)の影響が強く受けているようです。    YBNコーデ―はノースカロライナ州生まれ、メリーランド育ちで、幼少時から熱心なヒップホップ・ファンで、昨年7月にリリースしたファーストアルバム「The Lost Boy」が高い評価を得て、一躍ラッパーとして第一線の躍り出て、今年1月のグラミー賞ベスト・ラップ・アルバム部門にノミネートされています(受賞は逃す)。昨年NBAロサンゼルス・クリッパーズのホーム試合で出会ったようですが、昨年8月末のUSオープンでは「チーム大坂」の応援ボックス席から声援する姿が写真に記録されています。そして、さらに大坂のBLM支援の姿勢を映すように、このボックス席には、NFLサンフランシスコ・フォーティーナイナーズのQB(クォータバック)だったコリン・キャパニックさんやNBAのスター選手だったコービー・ブライアントさん(今年1月ヘリコプター墜落事故で死去)も顔を揃えるという豪華な応援団で、その人脈の幅広さを示すものでした。また大坂は今年5月の、白人警官によるジョージ・フロイド殺害事件でYBNコーデ―と一緒に、ミネソタ州ミネアポリスの現場を訪れるほどの強い関心を示していました。(次号に続く)     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

  • 第四十七回 
FBIが脅威とする『Qアノンの陰謀論』

 

    第四十七回  FBIが脅威とする『Qアノンの陰謀論』  

    2020年08月25日 アメリカ101

       それは、「オドロオドロシイ」とうひとことにつきるでしょうか。さまざまな報道で目にすることが多くなった「Qアノン」(QAnon)と総称される、ドナルド・トランプ大統領支持を鮮明にするネット上での政治運動/社会運動が流布する陰謀論のことです。「悪魔を信仰する数多くの政治家や超有名セレブたちから成る幼児・小児性愛者グループが世界的な人身売買網を構築している」のを阻止するのが狙いで、人種差別を口にし、反ユダヤ主義も掲げる、いわゆる異端論者集団(fringe group)です。しかしネット時代とあって、これまでのような、極めて少数の“信者”が加わる「端っこ」の組織にはとどまらず、フェイスブックやツイターといったプラットフォームを通じて情報を拡散することで、隠然とした存在に急成長しているだけでなく、その陰謀論シンパの政治家が共和党から連邦議会選に立候補、当選が確実視されるケースもあって、現実の政治の世界にも波紋を広げてます。     今年の選挙では、トランプへの熱烈な支持を表明すると同時に、Qアノンへの好意/同感を表明する60人近い共和党政治家が全米各地で連邦上下両院選挙に立候補し、そのうち予備選を勝ち抜いた3人の候補者が、上下両院選本選に臨んでいます。共和党内には、極論/異端論者が同党候補なのは同党のイメージダウンになるとして批判を口にする議員がいるものの少数派にとどまっています。トランプ自身も8月19日の記者会見で、Qアノンについては詳しくは知らないとしながらも、批判を避けて容認する姿勢をとり、これら候補が熱烈なトランプ支持者であることに気をよくしてか、ジョージア州第14区予備選で勝利し、11月の本選での当選が確実視されている建設会社オーナーでもあるマージョリー・テイラー・グリーンさん(46)を「将来の共和党のスターだ」「真の勝者だ」と持ち上げていました。     Qアノンは3年ほど前からネット上で存在、連邦政府内の極秘情報を知る立場にあるQと称する人物が始めたとされていますが、その後の拡散で集団的な運動となっています。Qというネット上のハンドル名は、核兵器製造·管理も担当するエネルギー省の秘密事項へのアクセス資格格付けである「L」と「Q」のうち、後者の最高機密へのアクセスを認められた人物を指すものとみられ、機密情報の信ぴょう性を強調する狙いがあるようです。また「アノン」は匿名を意味する「anonymous」の冒頭4文字とされています。そして、敵と見なす「小児性愛秘密結社」は、 アメリカを陰から操り、真の権力を手にしている「影の政府」である「ディープステート」と同調してトランプ政権の破壊工作を企てているという考え方で、その流れを押しとどめ、究極的にはトランプ政権の温存/勢力拡大を狙うというのが任務ということのようです。皮肉なことに、攻撃対象としている「ディープステート」と同様に「影の存在」であるため、その詳細な実態は不明ですが、ネットを通じて広宣活動を展開していますが、フェイスブックなどは、事実無根な情報だとして、数多くの書き込みを削除しています。「われわれが一体となるところへ、われわれすべてが行く」(Where we go one, we go all)がモットーで、その頭文字をとった「#WWG1WGA」が略称です。     8月21日付のNBCニュースによると、全米各地で毎週土曜日に「児童を救おう」「沈黙はに終止符を」「われわれのこども達のために目覚めよう」といったプラカードを手にした小規模なデモが行われています。表面的にはこどもの福祉を願うデモのようですが、中には「WWG1WGA」と書かれたものもあり、Qアノン賛同者のデモであるのが分かるとのことで、昨年8月のヤフー・ニュースは、FBI(連邦捜査局)がQアノンの陰謀論を、「新たな国内テロの潜在的な脅威」と規定、監視を強めていると伝えており、不気味な存在として目が離せないものとなっています。      著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

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民主党副大統領候補 カマラ・ハリスの
Birtherism

 

    第四十六回 民主党副大統領候補 カマラ・ハリスの Birtherism  

    2020年08月18日 アメリカ101

    北原白秋を借用すれば、「この道はいつか来た道」ということでしょうか。民主党大統領候補ジョー・バイデン前副大統領が、runnning mate(相棒)であるVP(副大統領)候補として、カリフォルニア州選出の連邦上院議員カマラ・ハリスを選んだのを受けてから早々に、再びBirtherismが頭をもたげてきました。   ジャマイカ出身の父親とインド出身の母親という移民を両親としてカリフォルニア州オークランド市のカイザー・オークラン病院で出生した生粋のアメリカ市民で、大統領/副大統領職への有資格者であることは疑問の余地がないようですが、「重箱の隅を楊枝でほじくる」ような「(カマラ・ハリスの)適格性についてのいくつかの疑問」と題するコラムがニューズウィーク誌が掲載され、ソーシャルメディアで「新たなBirtherismか」と、一躍大きな話題となりました。これについてドナルド・トランプ大統領は8月13日の記者会見で聞かれた際、「今日その話を耳にしたが、(それが真実かどうかについては)知らない」としながら、コラムの筆者であるチャップマン大学ロースクールのジョン・イーストマン教授が「非常に知見があり、きわめて有能な法曹家だ」と述べて、必ずしも否定せずに、疑問符を付けたままとしました。またトランプ再選本部のジェンナ・エリス顧問はCBSニュースに対して、ハリスの適格性については「疑問が残されており、ハリスはアメリカ国民に説明すべきだ」と言明、確固とした結論は出ていないとの見解を明らかにしています。   Birtherismとは、前大統領のバラク・オバマがハワイで生まれたとする証拠がないとして、主として共和党支持者の間での、オバマが大統領となる資格がないとする「出生国籍陰謀論」で、トランプは2016年の大統領選挙に出馬表明する以前から、その主張を繰り返し、それをバネにして人気を集め、ホワイトハウス入りの手掛かりとした経緯があります。このコラムでは7月10日号(第四十回)で、トランプ陣営がバイデンがrunning mateに選ぶであろう女性政治家の「あら探し」作戦に触れましたが、ハリスを狙ったBirtherismはその“初弾”でしょう。   イーストマン教授は、1898年の連邦最高裁での大統領の適格性に関する法例では、永住権を有する外国人の子女が有資格者であるとの判断を示したが、市民権や永住権を得ていない外国人両親(例えば当時の’ハリス両親のような学生ビザ保有者)の間で生まれた子女が、合衆国憲法第2条第1節2項で規定する大統領有資格者(生まれながらの合衆国市民)であるかについては直接言及していないと指摘。奴隷制度廃止に伴う市民権の拡大に関する憲法補正第14条の当初の解釈では、両親が市民権や永住権のない外国人であるハリスのようなケースでは、「生まれながらの市民」ではないために、大統領/副大統領となる資格はないというのが論旨です。法的解釈の違いということでしょうが、現在では大部分の憲法学者は、外国人であれ不法移民の子女であっても「生まれつきのアメリカ市民」であるとしており、「イーストマン解釈」は“極小派”とされています。ちなみに同教授は「政治家志向」が強い共和党支持の学者で、1990年連邦下院選挙では、ロサンゼルス市ダウンタウンを含む第34選挙区から立候補(落選)、2010年カリフォルニア州司法長官選挙にも出馬、予備選で敗退しています。この選挙では民主党からはハリスが出馬して当選、「全国区政治家」としての足掛かりをつかむ転機となりました。   今回の、この新たなBirtherismは、11月3日の投票日が迫る中、民主党側が推進する郵送投票が「イコール不正投票」となるといったトランプ陣営による民主党攻撃戦略の一環ということでしょう。今週のオンラインによる民主党全国大会が終わり、8月24日から27日までの共和党全国大会を経て、選挙戦は終盤に差し掛かります。     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。