連載・コラム アメリカ101

編集: Weekly LALALA - 2020年06月23日

第三十八回
若者たちの偽(フェイク)予約と
トランプ大統領の再選戦略

 

 新型コロナウイルス禍での重なる失策で支持率が急速に下降をたどる窮地に追い込まれているドナルド・トランプ大統領。11月3日の大統領選投票日を念頭に置いて、再選に向けて、10万人にものぼる熱烈な支持者を集めて、仕切り直しとなる新しい選挙戦のスタートを華々しく喧伝するはずだった6月20日のオクラホマ州タルサでの遊説が「大失敗」(fiasco)、「悲しい茶番」(sad farce)に終わったことで、トランプが再選戦略の見直しを迫られています。

 

投票日まで4カ月少々、「選挙は水もの」「オクトーバー・サプライズ」(投票日間近の10月に予想外のハプニングがあること)というように、何が起こるかわからない状況が続くわけですが、南部諸州を中心に新たなウイルス感染拡大が伝えられ、またジョージ・フロイド殺害で触発された活発なBLM(Black Lives Matter、黒人の生命も大切)の動きといった緊張した空気に満ちたアメリカの「国難」が続きます。

 

 タルサでの集会は、当初のホワイトハウスの目論見では、ウイルス禍で中断を余儀なくされた遊説に大統領が直々にお目見えする、お得意の「トランプ・ショー」の“新装開店”となるはずだったのですが、予想をはるかに下回る観客動員と、相変わらずのハチャメチャな「トランプ節」で、再選に向けた弾みをつけることはおろか、逆にトランプ支持者層へのテコ入れにもならない結果となりました。 

 

 トランプの焦りは、ウイルス禍に伴って支持率がジリジリと低下、強面のリチャード・ニクソン大統領張りの「法と秩序」を前面に打ち出したBLM対応でも大方の共感を得ることはできず、メディアでのトランプ最大の“応援団”であるフォックス・ニュース(FNC)直近の世論調査でさえ、民主党の対立候補ジョー・バイデン前副大統領選挙に支持率で50%対38%と、12ポイント差をつけられています。前回5月中旬の調査では48%対40%と、8ポイント差でした。トランプにとって問題なのは、支持率格差がここ数カ月で徐々に拡大する傾向にあることで、このままでは40%前後の、強固とみられていた支持基盤さえ危ういという状況になりかねないわけです。

 

 そんな中で、“起死回生”を誇示するイベントとして企画したのが、タルサでの集会でした。オクラホマ州は、トランプにとっては盤石の支持母体で、前回2016年の選挙では、対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官に得票率で36・4ポイントもの大差をつけたところで、いわば“気が知れた身内”の集まりとなるはずでした。

 

事前のオンライン参加者受付では100万人の応募があったため、メーン会場のバンク・オブ・オクラホマ・センター(BOK,、収容人員1万9千人)が超満員となるので、会場の外に特別演壇を特設、そこにも数万人が集まると予想していたものの、蓋を開けてみれば、主会場は定員の3分の1の6千2百人(消防当局推定)で、屋外会場前には数10人が集まっただけで早々に撤去を余儀なくされるという有様で、トランプは激怒したとのこと。この目算違いはソーシャルメディアに集った若者たちが偽の(フェイク)予約を入れたのが響いたようですが、AP通信が配信した、何時もなら身だしなみに気を遣うトランプが、売り物の赤のネクタイを解いて首からダラリと垂らし、疲れ切った表情で、21日午前1時過ぎに「マリーンワン」からホワイトハウスに向かう姿が、置かれた苦境のすべてを物語っているようでした。

 


著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ)
通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

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    2020年07月07日 アメリカ101

     伝わってくるのは、11月3日の投票日に向けて“起死回生”をはかるトランプ陣営による周到な「中傷/悪口/人身攻撃作戦」(smear campaign)へ向けた準備です。新型コロナウイルス渦に加えて白人警官による黒人殺害事件の続発に伴う人種差別撤廃に向けた抜本的な社会・制度改革の必要性が高まる中、強硬路線を突っ走るドナルド・トランプ大統領は、支持基盤の地固めに加えて、民主党の対立候補指名が確実なジョー・バイデン前副大統領と、副大統領候補となる女性政治家の“あら探し”を選挙戦の中心に据えて、巻き返しを図る戦略のようです。    トランプの再選は、各種世論調査での支持率が40%前後に低迷、バイデンに2ケタも引き離されるという状況が続き、暗雲が立ち込めています。2017年に就任以来の支持率の低さは近年の大統領の中で際立っています。任期中にはさまざまな出来事次第で支持率は大きく上下するのが通例で、ブッシュ親子についてみると、息子ブッシュ(43代)は2011年の同時多発テロ事件への対応で一時は90%を超えたものの、逆に20%台に低迷するという振れの大きさでした。父ブッシュ(41代)も第一次イラク戦争で80%台後半の高い支持率を記録したあと、経済面での失政から20%後半に急落、再選に失敗して引退を余儀なくされています。   ところがトランプは就任以来3年半で、40%から50%という、「安定した」狭い幅を上下していて、基本的には、「必ず投票所に足を運ぶ」という“基礎票”は4割とみていいでしょう。これに、どれだけ浮動票を上積みできるかが当落のカギを握るわけですが、前回2016年選挙では、ヒラリー・トランプの“不人気”という“敵失”で勝利したものの、今回はトランプ政権への幻滅感が浮動層に強まっていて、苦しい展開です。    再選には株価上昇に見られる好況持続と、「小さな政府」哲学貫徹を売り物としたトランピズム(トランプ主義)がセールスポイントですが、コロナウイルス渦と人種差別問題が緊急課題として浮上してきたことで“ご破算”となり、模索が続いていました。これまでは、性急な経済活動再開促進や地固めのための大規模な地方遊説集会が軸となってきましたが、選挙戦の本格化で、個人攻撃を前面に打ち出す方向が強まる見通しです。    トランプの「あら探し」作戦は、弾劾訴追にまで追い込まれた「ウクライナ疑惑」での、息子ハンターをめぐるバイデンの介入疑惑を利用したウクライナ政府への働きかけが核心でした。そしてバイデン本人については女性事務職員へのセクハラ疑惑が依然としてくすぶっていますが、当面は8月早々にずれ込んでいるバイデンの副大統領候補選びの行方が焦点です。バイデン陣営による有力女性政治家への身元調査(vetting)が進んでいますが、同時にトランプ支持組織による“身体検査”も、情報公開法に基づく調査を含めてきわめて広範囲に進められていると伝えられます。有力視されるエリザベス・ウォーレン上院議員には「アメリカン・インディアン・コネクション」、カマラ・ハリス上院議員には「交際男性関係」といった手がかり材料があり、白紙状態だった候補政治家についても、当然ながら“あら探し”が進行中でしょうし、バイデン側も、それを注視しながら、対応策を練るという舞台裏での動きが活発となっていることは間違いありません。派手な表面の動きとは裏腹の、魑魅魍魎が徘徊するウラの世界への目配りも欠かせません。      著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。  

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2024年11月6日付け新聞各紙のタイトルに
「アメリカ初の女性大統領誕生へ」の可能性

 

    第三十九回 2024年11月6日付け新聞各紙のタイトルに 「アメリカ初の女性大統領誕生へ」の可能性  

    2020年06月30日 アメリカ101

    いくつかの仮定(if)、そして、いくつかの前提をクリアする必要があるのですが、2024年11月6日付けの新聞各紙に「アメリカ初の女性大統領誕生へ」という全面ぶち抜きの大見出し(banner headline)が躍る可能性が出ています。そして、その時点での「次期アメリカ大統領」は、今回の大統領選挙で民主党候補ジョー・バイデン前副大統領とコンビを組んで当選を果たした「初の女性副大統領〇〇〇」というシナリオです。それこそ、“未来小説”の範疇に入る夢物語かもしれませんが、しかし・・・。    バイデンは、8月1日までに、11月3日の投票日に向けて選挙戦でコンビを組む副大統領候補に女性政治家を起用すると公約をしています。その筋書き通りとなると、現時点では、再選を狙う共和党のドナルド・トランプ/マイク・ペンス正副大統領に世論調査で2ケタ前後の大幅なリードを奪っている状況が続けば、民主党コンビがホワイトハウスを奪回し、歴史上初の女性副大統領が実現することになります。そして、誕生日が11月20日というバイデンは、すでに77歳という「後期高齢者」であり、再選されれば、2期目の就任式を82歳の高齢で迎えるわけで、「それはちょっと無理」として「後進に後を譲る」ことになるでしょう。事実バイデンはこれまでのことろ、2期にわたる政権担当については一切言質を与えていません。そしてその時点での女性副大統領が出馬すれば、他の候補者を抑えて指名獲得に最短距離に立つでしょう。一方の共和党は「ポスト・トランプ」の態勢立て直しに苦慮することは間違いなく、「史上初の女性大統領」が現実味を帯びてきます。   その結果、冒頭のような、2024年の選挙投票日翌日の新聞見出しとなるわけです。それだけに、そのような可能性を内包したバイデンの副大統領候補選びは、1984年大統領選で民主党候補ウォルター・モンデール前副大統領が副大統領候補に起用したジェラルディン・フェラーロ連邦下院議員(ニューヨーク州選出)(主要政党で初めての女性副大統領候補)や、2008年に共和党候補ジョン·マケイン上院議員(アリゾナ州選出)が選んだアラスカ州知事サラ・ペイランといった人選とは比較にならない重みを持っています。    バイデンが3月中旬に、「女性副大統領候補」を公約して以来3カ月半が経過、これまでに有力候補として10人を超える女性政治家の名前が報じられてきました。バイデンとしては、女性重視の姿勢を具体的に示すことで、女性票固めを狙ったものと受け止められていますが、そのために「人選審査委員会」を設置、経歴、政見、個人資産、係累、犯罪記録などあらゆる面からの身元調査(vetting)を進め、片手の指の数ほどまで人選が絞られた第二段階にきたようです。さまざまな情報からすると、有力候補としては、今回大統領選予備選挙でバイデンと指名を争ったエリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出)、カマラ·ハリス(カリフォルニア州選出)両連邦上院議員が上位にランクされ、最近では、バラク・オバマ前大統領の下で国連大使や国家安全保障担当補佐官を歴任したスーザン・ライスや、ジョージ・フロイド事件で、黒人や有色人種への人種差別問題が差し迫った政治的課題に浮上したことにともない、他の女性政治家にも焦点が当てられています。いずれも「女性大統領」としての有資格者ということですが、民主党内での女性政治家の人材が豊富なことを示すものでしょう。   中でも、「完璧な女性副大統領候補」として急速に注目を集めているのが、イリノイ州選出連邦上院議員タミー・ダックワースです。イラク戦争でヘリコプター・パイロットとし従軍、両足を失うという重傷を負い、名誉戦傷章(Purple heart)を受けた退役陸軍中佐のタイ系アメリカ人というユニークな経歴です。常にいくつかの「初の」という形容詞が付いてまわる、豊富な話題を提供する穏健派の有望株として存在感を強めています。   (7/10号に続く)     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。  

  • 第三十七回
ウイルス禍での死亡者数トップ・スリー。
不名誉なタイトル保持国

 

    第三十七回 ウイルス禍での死亡者数トップ・スリー。 不名誉なタイトル保持国  

    2020年06月16日 アメリカ101

     新型コロナウイルス禍で、アメリカは結果的には、「『道を聞きたがらないオトコ』がリーダーだったために、亡くなることもなかった人が10万2千人も亡くなった」との驚くような試算をしたのは、ニューヨーク・.タイムズ紙コラムニスト、ニコラス・クリストフ記者の「女性指導者のもとでの各国が、より安全だった可能性」(Nations May Be Safer Under Women)という刺激的な見出しのコラム(6月14日付)です。   そのオトコとはドナルド・トランプ大統領であり、またイギリスのボリス.ジョンソン首相であり、ブラジルのジャイル.ボルソナロ大統領であり、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師です。そして当初3国は現時点では、ウイルス禍での死亡者数トップ・スリーという不名誉なタイトル保持国です。いずれもトップ政治家が猪突猛進スタイルの政治手法で知られていますが、ニコラスは、UCLA〈カリフォルニア大学ロサンゼルス校〉疫病専攻のアン・ライモニン教授を引用しながら、「効果的なウイルス対策を採用して、封じ込めに成功した国々は、その国の指導者のリーダーシップとマネージメントスタイルが背景にある」として、専門家の意見に耳を傾け、それを尊重する女性政治家の存在が大きく影響していると指摘しています。    ニコラスは、この見方を敷衍するために、世界21カ国を「男性指導者が率いる13カ国」と「女性が率いる8カ国」に分け、それぞれのグループの、100万人当たりの死亡者数を算定したところ、「男性国」の平均死亡者数が214人だったのに対して、「女性国」では、そのわずか5分1の36人だったとのこと。これをアメリカに当てはめると、“女性大統領”なら、死者数は10万人以上少なくなっていたというわけです。そして、これを受けてバラク・オバマ政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライスは「女性による最善の施政が行われているところでは、(このようなことは)偶然ではない」として、ニュージーランド(ジャシンダ・アーターン首相)、ドイツ(アンゲラ・メルケル首相)、台湾(蔡英文総統)の名前を挙げています。反対に「ものごとがきわめて悪いところ(アメリカ、ブラジル、ロシア、イギリス)では、男性エゴや怒鳴り合いが跋扈している」と指摘、これら国々の指導者の欠陥を指摘しています。たしかに男性エゴは、ドライブ中に道に迷っても、人に聞こうとしないという国境を超えた男性ドライバーの行動に如実に表れていますが、アメリカ南部ノースカロライナ州にある名門デューク大学ビジネススクールの研究では、男性が道を尋ねないのは、周囲から「能力に欠ける」(bad)とみなされるのを嫌うからだという結果が出たとのことで、女性の場合は、性別の差別感から期待度が低いという固定観念から、容認されるケースが多いようです。    もちろん女性政治家だから万々歳ということは勿論ないわけで、「ダメオンナ」も珍しくありませんが、少なくともコロナウイルス禍では、アメリカではニューヨーク州知事のアンドルー.クオモやカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムのように万人が認める結手下リーダーシップを発揮しているものの、トランプ政権では、そのような器量を持った指導者は見当たりません。今年の大統領選挙で、民主党候補が確実な前副大統領ジョー・バイデンは、副大統領候補に女性を起用すると公約しており、ホワイトハウスを奪回すれば、政権トップの政治スタイルもプラスに変化する可能性があるようです。     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

  • 第三十六回
ジョージ・フロイド事件が示すアメリカの悲劇

 

    第三十六回 ジョージ・フロイド事件が示すアメリカの悲劇  

    2020年06月11日 アメリカ101

     アメリカについて少しでも学んだことがあるなら、「すべての人間は生まれながらにして平等であり・・・」という文言を聞いたことがあるでしょうし、英語の原文(all men are created)を暗唱できるかもしれません。 アメリカ建国で重要な役割を演じたトマス・ジェファソン(第3代大統領)が起草したアメリカ独立宣言(1776年)の冒頭に記されている、新しい国家が希求する理念を高らかに唱えたもので、歴史上初の近代的な民主共和制の誕生を記すものです。 しかし、黒人であるジョージ・フロイドが白人警官の過剰暴力で死亡した事件を発端とする、このところの動きは、この理想国家を目指したアメリカが、南北戦争(1861-65)を経験し、1960年代の公民権運動を契機に整備された一連の法制にもかかわらず、250年近く経過しても、依然として人種差別が跋扈(ばっこ)する現状を浮き彫りにした「アメリカの悲劇」を象徴するものです。   人口に膾炙(かいしゃ)した「奴隷問題はフィラデルフィア制憲会議(1787年)で、テーブルの下でとぐろを巻いていた邪悪なヘビであり、その後も、常にひとの口にはのぼらないにしても、常にわれわれと共にあった」という、19世紀のエッセイスト、ジョン・ジェイ・チャップマンの箴言や、「20世紀の課題(issue)は人種問題(color line)だ」という、19世紀から20世紀に活躍した著名な黒人の社会学者・公民権運動指導者W・E・B・デュボイスの予言を改めて想起すると、ジョージ・フロイド事件が単なる白人警官による偶発的な暴行事件ではなく、アメリカ建国、さらには400年前の、初めてのアフリカ黒人奴隷の「新世界」への強制連行という「アメリカの原罪」「アメリカのDNA」にたどり着くという歴史的な文脈での出来事であることが明白となります。   アメリカ合衆国憲法では、具体的な黒人への言及はなく、黒人奴隷は「(納税義務のないインディアンを除いた)自由人以外のその他のすべての人々」として扱い、徴税と選挙権の目的では、人口算定基準として、その5分の3を勘定する旨が定められています。 言ってみれば、奴隷は人間として「半人前」を少し上回る「5分の3人前」としてか認めていないというわけです。   奴隷解放宣言(1863年)を受け、南北戦争終了以降に、さまざまな差別撤廃に向けた措置がとられてきたのですが、現在でも、黒人であることのハンディキャップが厳然とした数字で示されています。 たとえば現下の新型コロナウイルス感染での死者数は、人口比率で白人が12.7%であるのに対して黒人は22%とほぼ倍となっています。   トランプ大統領は6月5日、今年5月の雇用統計で、雇用が前月比で250万人増加、失業率は13.3%(前月は14.7%)と予想外の改善で、記者団を前に姿を見せ、「今日は素晴らしい日」だと誇らしく強調したのですが、黒人労働者に限った統計では失業率は逆に16.7%から16.8%に微増しています。 これについて、公共放送PBSのハイチ系黒人女性記者ヤミチェ・アルシンダーが、「これが、どうして素晴らしい日となるのですか?」と質問すると、「お前さん.大した度胸だね」(You are something)と言い放って席を立ってしまうという一幕がありました。ウイルス禍や人種差別問題を抱え国難に直面する現職大統領の対応としてはお粗末な限りで、現政権に期待するのは無理なことを改めて示すものとなりました。     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。    

  • 第三十五回     アメリカでの人種暴動の引き金 

 

 

    第三十五回     アメリカでの人種暴動の引き金    

    2020年06月02日 アメリカ101

    ミネソタ州ミネアポリスで5月25日に、白人警官が黒人男性ジョージ・フロイドの首筋を膝で圧迫、死亡させた事件は、新型コロナウイルス禍に揺れるアメリカに新たな混乱を巻き起こす事態となっています。長年にわたり繰り返される警官による黒人への必要以上の暴力行為に対する抗議デモが少なくとも135都市で発生、一部の暴徒化した群衆が放火・略奪に走ったことで、鎮圧のため警察気加えて30州で州兵が出動する事態に発展しました。ドナルド・トランプ大統領は断固弾圧という強圧的な姿勢を崩しておらず、アメリカは国家としての危機的状況が深まっています。   いかに厳しい状況にあるかを示す事実がふたつあります。ひとつは、事件発生後の29日夜に、鉄柵で囲まれたホワイトハウスから道一つ隔てたラファイエット公園に数百人が参加する抗議デモがあり、投石やペットボトルを投げる騒ぎで、トランプが、身辺警護のシークレットサービスの指示で、メラニア夫人と3男バロンを伴ってホワイトハウス内の地下バンカー(壕)に約1時間避難したことです。   正式には「大統領緊急オペレーションセンター」(Presidential Emergency Operation Center)と呼ばれ、非常事態で大統領を身柄の安全確保のための施設。身辺保護で使用されたのは、2001年9月の同時多発テロ事件で、当時のジョージW.ブッシュ大統領がフロリダ州に滞在していたため、代わりにディック・チェイニー副大統領が一時避難して以来とみられています。その後このバンカーは、テロ行為で大型ジェット旅客機がホワイトハウスに激突しても、身の安全が確保できるように補強されたといわれています。   もうひとつは、今回のような大規模な全米での州兵/軍隊展開です。アメリカでの人種問題を起因とする大きな暴動としては、最近では1992年のロサンゼルス暴動があります。黒人男性ロドニー・キングへのロサンゼルス市警(LAPD)警官による暴行事件ですが、当事者の警官4人の無罪判決で抗議デモや暴徒による放火・略奪にLAPDが対応できなかったため州兵に加えて第7歩兵師団や第1師団など第一線の連邦軍部隊が出動、鎮圧にあたった経緯があります。しかし暴動はロサンゼルス都市圏に限定され、死者63人、負傷者2400人、損害総額10億ドルという最大級の人種暴動は6日間で収束しました。   それ以前にも1967年のデトロイト暴動(死者43人)、1965年のワッツ暴動(死者34人)といった単独都市での暴動が1960年代に発生しています。いずれも警官による黒人への暴力行為が起因です。今回のように、全米各地で同時に暴動が勃発したのは、1968年4月に、公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師がテネシー州メンフィスで暗殺された直後以来です。首都ワシントン、ボルチモア、シカゴ、カンザスシティーなど100以上の都市での暴動で合計40人以上の死者を出すという、南北戦争以来最大規模の社会不安を引き起こした事件でした。   このようにアメリカでの人種暴動の引き金となったのは、その大部分が警官による暴力行為であるという歴史的な背景を強く意識する「被差別者」である黒人が、「またか」という虚脱感と同時に、やり場のない怒りのはけ口を身体で表現するのを理解するのは、そう難しくないことだと思われます。 (以下次号に続く)     著者/佐藤成文(さとう・しげぶみ) 通称:セイブン 1940年東京都出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。