小澤征爾に次いで2人目 バイオリストの五嶋みどり 『Kennedy Center Honors』に出演

アメリカ101 第86回

 

まず手元のメモ帳や予定表、あるいはカレンダーに次のテレビ番組の放送予定を記入してください。「CBSテレビ系列局66日(日)午後8時から同10時まで、番組名Kennedy Center Honors」です。毎年首都ワシントンにある舞台芸術の殿堂ケネディ・センターが主宰する一大イベント、ケネディセンター名誉賞(Kennedy Center Honors)の第43回授賞式の録画中継番組なのですが、今年は、バイオリストの五嶋みどり(世界的にはMidoriとして呼称)が日本人としては2015年の指揮者・小澤征爾に次いで2人目の受賞者に選ばれ、俳優のディック・バン・ダイクやフォーク歌手のジョーン・バエズ、カントリー歌手のガース・ブルックスらと共に一連の行事に出演する模様を収録した番組が放映されるからです。 

 

 通常なら毎年12月に、ワシントン社交界の一大イベントとして、その時の大統領が受賞者をホワイトハウスに招くレセプションや、国務省での授賞式、そしてケネディ・センター歌劇場での披露式典などが相次いで開かれ、いつもは「政治・政治家」が主役のワシントンが、華やかな「芸術都市」に変身するのですが、新型コロナウイルス禍で昨年に続き、今年も規模を縮小して実施されます。 

 

 アメリカの大都市では、歌劇場やコンサートホール、舞劇場などの一連の舞台芸術のための複合劇場群が存在します。ロサンゼルスではダウンタウンのグランド・アベニュー沿いの「ロサンゼルス郡パフォーミングアーツ・センター」(通称ミュージック・センター)で、当初の大劇場ドロシー・チャンドラー・パビリオンなどに続き、2003年に奇抜な建物で知られるフランク・ゲリーが設計、豊田泰久が音響設計を担当したウォルト・ディズニー・コンサートホールが完成して、「芸術都市ロサンゼルス」の顔となっているほか、ニューヨーク市ではリンカーン・センターがあります。ワシントンにはケネディセンターができるまでは、近代的な歌劇場やコンサートホールは存在しなかったのですが、首都としては不可欠としてパフォーミングアートの総合施設が1971年に完成、1963年に暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領を記念して命名され、現在に至っています。ポトマック川に面して、歌劇場、コンサートホール、演劇場の3大ホールを擁する低層ビルは、重厚なビルが多い「政治都市」ワシントンでの近代的な様式で目立った存在です。 

 

 「ケネディセンター名誉賞」は、アメリカを中心に活躍するパフォーミング・アーティスト(Performing Artist、舞台芸術家、広義の芸能人)として、その業績が高く評価されるアーティストのみに授与されます。そのレベルの高さは、1978年の第1回受賞者がオペラやリート(ドイツ歌曲)などクラシック声楽家として活躍したマリアン・アンダーソン、映画俳優でダンサーとして有名なフレッド・アステア、バレエダンサー・振付師としてアメリカのバレエ界に大きな足跡を残したジョージ・バランシン、そしてショパン弾きの第一人者だったピアニストのアーサー・ルービンスタインであったことからもうかがうことができます。 

 

 日本人としての最初の受賞者となった小澤征爾は、アメリカ有数のオーケストラであるボストン交響楽団の音楽監督を30年近く務めた業績が評価され、受賞しています。歴代受賞者のほとんどは60歳代以上という中で、五嶋みどりがまだ49歳での若さでの受賞なのは、その天才ぶりを示すものでしょう。音楽家としてだけでなく、南カリフォルニア大学(USC)教授やオクスフォード大学名誉学位を授与されるなど教育家でもあり、さらには音楽の素晴らしさを若い世代に伝えるさまざまな社会事業活動を続けてきた日本が誇る稀有のアーティストの一端をうかがう機会となるCBSテレビの番組は必見といえます。 

 

 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

 

 

 

 

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