Vol.24 企業は社員を食わせるためにある(Weekly LALALA 710号掲載)

人生も商売も、出る杭うたれてなんぼやで。 連載 Vol.24 吉田潤喜

企業は社員を食わせるためにある

 一九八一年、三十二歳でビジネスの世界に飛び込んだとき、私はたった一人で会社を始めた。それが二十年後の現在、十八の会社を経営し、社員も全部で四百人を越すまでになった。グループ全体の年間売上高は日本円で約二百億。ビジネスの範囲も、ソースから航空貨物、不動産、スノーボードを始めとするスポーツ用品、衣料と多岐にわたっている。
 人呼んでアメリカの「ソース王」。二万坪という広い自宅に住み、そこそこ顔を知られる「有名人」にもなった。私生活では良き妻と三人のかわいい娘たちにも恵まれ、傍から見れば絵に描いたような幸せな生活を送っている。しかし、そんな私にも、大きな恐怖がある。それは「会社が潰れたらどうしよう」ということだ。
 ついついそう考えるのは、これまで何度となく倒産の危機に直面してきたからかもしれない。グループの売上高が二百億円と書いたが、もちろん借金だって相当ある。たとえ会社が潰れようとも、私と家族だけならどうにでもなるだろう。だが、これまで一緒にがんばってくれた社員を路頭に迷わせたくはない。きれいごとに聞こえるかもしれないが、本心からそう思う。
 一見、何の脈略もなく事業を多角化しているのは、何にも増してこの恐怖に打ち勝つためである。ヨシダ・グループの中心は今もソースだが、アメリカの食品業界は毎週四十製品が新規投入されるほど熾烈な競争が展開している。もちろん皆、各々に自分の商品に自信を持っているからこそ参入するわけで、我が社だっていつまでも安泰ではいられない。もしソースのビジネスがダメになっても、他の会社が社員の受け皿になってくれるのではないか、と期待して私は多角化を進めてきた。
 こうした私のやり方は、本業一本で商売をしている経営者からすれば、「邪道」とうつるかもしれない。しかし、企業の「本業」とは、社員を食わせることだと私は思う。ビジネスをやっている限り、不振に陥るときは必ずやってくる。たとえそうなっても、簡単に社員のクビは切りたくない。
 最近、ある会社を買収しないかという話が舞い込んできた。相手は、ソースのプラスチック容器をつくっているメーカーだった。この話に関して、私は丁重に断ることにした。理由は簡単で、ソースのビジネスが好調なうちは、それに伴ってプラスチック容器メーカーの業績も伸びるだろう。しかし、ひとたびソースの売れ行きが落ちれば、メーカーも同様の結果になってしまう、つまり、このメーカーを買収しても、グループの「セーフティネット」の役割は果たしてくれない。
 その一方で、いかにして私がグループの事業を拡大していったのか。すでに述べてきた水産ビジネス、航空貨物、ゴルフ場開発、スノーボードなどには、必ず何処かで「人との出会い」があった。ソースにしろ、たまたまクリスマスプレゼントのお返しに配ったものが好評だったから商売にしてしまった、という偶然の産物なのである。
 こうした具合に、グループの十九社は各々にストーリーを持っている。読者が食傷気味になっていないことを願いつつ、あと少し、最近になって始めたビジネスについて話を続けてみよう。

吉田潤喜
1949年京都市生まれ。69年渡米、ワシントン州とオレゴン州における空手を使った警察逮捕術主席師範を経てヨシダフードを設立。醤油ベースのソース「ヨシダソース」が爆発的ヒットに。現在グループ会社の会長兼CEO。2003年、インテルやAOLなどと並び、米国の優秀中小企業家賞を受賞し殿堂入りを果たすとともに、2005年のニューズウィーク日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。

このコラムは『人生も商売も、出る杭うたれてなんぼやで』(幻冬舎アウトロー文庫)から抜粋・編集しています

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