イチローはカッコ良く去っている時ではない!

プロ野球のオフシーズン、イチローが大活躍している。今季限りで引退した西武の松坂大輔投手の引退セレモニーにハプニングで登場したのだ。

フィナーレ後にグランドを1周する松坂の感動のラストシーン…と思ったその時、ビジョンに写しだされたのはイチローの姿だった。「大輔、どんな言葉を掛けていいか、なかなか言葉が見つからないよ、だから僕にはこんなやり方しか見つからない。許せ、大輔。」そして背後からイチローが花束をもって登場したのだ。

松坂を労う2人の熱い握手、頭を下げる松坂、その間わずか35秒。言葉をかけるとイチローはすぐに立ち去ったのだ!球場に残る余韻…かっこよすぎる!

 

 

イチローはこのオフに訪ねた高校野球のグランドでも同じ行動をしている!! 「智弁和歌山」「国学院久我山」「千葉明徳」の3校がなぜ選ばれたのかは定かでないが、聞くところによると、野球部員からの「学校に来て指導して欲しい」という熱い要望の手紙の宛先が「鈴木一朗様」とフルネームで書かれていたことが決め手になったとも。

イチローの直接指導なんてどんな幸せな事か。まして「千葉明徳」は一度も甲子園出場経験がない。彼らにとって生涯の思い出になるはずだ。大感動の球児との練習後、イチローは颯爽と去っていく。まるで西部劇の名作「シエーン」や黒澤明監督の「椿三十郎」の映画のワンシーンのように。これがイチローの人生の美学なのかもしれない。

 

でも私はイチローの違う側面も見たいのだ!それは「その場にいつまでもグズグズ居る」という生き方。私の父親が亡くなった時、友人たちが全く帰らずに朝まで父親の傍にグズグズいて、その間ずっと親父に話しかけていた。最初は戸惑ったが最高の供養と感じた。

イチローにも高校球児とグズグズ一緒に居て寝食を共にして欲しい。田舎の名もない高校で、早朝から球児と山道や海辺をランニング、地方予選での戦い方や負けた時の気持ちの切り替え方、負け犬根性をどう取り払うか等、メジャーリーグで培ったトレーニング方法で身体を整えることを身をもって見せる。当然マスコミは連日事細かに報道してくれる。これがいい! 羨ましがる全国の高校球児が、イチロー監督と部員の一挙手一投足を参考にする。そうなると日本中の球児のレベルが上がるのではないか。

それだけではない。各校の監督、コーチも刺激を受けるはず。当然イチローとは違う考えの指導者はいるだろう。彼らは改めて自分の野球教育に自信を持つかもしれない!

 

面白そうだ! 箱根駅伝優勝で選手に意識革命を起こした青山学院大学の原監督のように、高校野球に新たな道を開いてくれ!

時代は「かっこよく風のように去っていく」時ではない!

 

 

 

■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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