「和食文化の入口作りたい」(8/2/2018)

土鍋専門店経営者

モア 武井 奈緒子 |Naoko Takei Moore

 ウエストハリウッドの『TOIRO』。高い天井から自然光が差し込み、明るくゆとりのある店内スペースに一歩足を踏み入れると、そこにずらりと並ぶのは日本人には馴染みの深い土鍋だ。約100種類の土鍋と日本のキッチン用品などを扱う。経営者は武井モア奈緒子さん。「土鍋を通じて、日本の食文化に興味もってもらうためのきっかけづくりをしている」と話す。『TOIRO』で扱う土鍋は三重県伊賀市の窯元『長谷園』のもの。中には何千個と試作品を作り5年以上かけて開発した商品もあり、特に若者などには手が届きにくい値段だ。「だから和食に興味を持ってもらうためにいろんな入口がないとダメだなと。
若い人はふらっとやってきて一個数ドル程度の食品を買ったりする。どんな人でも手の届くものがあるお店でありたいし、何がきっかけになって日本の食文化に興味を持ってくれるかわからないので、食品や小物も取りそろえて、違う入口を作ってあげたい」。


 武井さんにとって土鍋とは「空気みたいな存在」だという。子ども時代、冬になると家族で鍋を囲む日常があった。2001年に留学で渡米したころ和食が作りたくなり、最初に欲しいと思ったのが土鍋だった。運命の出会いは10数年前。一時帰国中の日本で長谷園の土鍋で炊いた白飯を食べ、「こんなおいしいご飯があるんだ」と衝撃を受けた。「土鍋は日本の食文化を象徴する道具の一つ。これを伝えたいと情熱がわいてしまった」。窯元に連絡をとり、米国で輸入したいが輸入の経験はないことを伝えると、「私たちも輸出とかわからないので、一緒に勉強しながらやりましょう」という温かい返事をもらった。


 まずはオンラインストアのみで販売を開始したが、割れ物である土鍋の輸送には苦労したという。「EMSで送ってもらったら一個送るのに170ドルとか。次は船便で送ってもらったら全部割れてしまったり」。試行錯誤を繰り返し、徐々に注文や問い合わせが増えた。武井さんのこだわりは「日本の職人技が光る食にまつわるものを紹介する」こと。それらすべてを手にとって見てもらうためには実店舗が必須と考え、昨年10月にオープンにこぎつけた。「一つ一つをゼロから作るのは大変だけど、暖かくサポートしてくれる人が多い。そういう人たちを大切にしたい」。


 現在ではオンラインと合わせて毎月500個ほどの土鍋が売れる。オンラインの注文は米国だけにとどまらず、ヨーロッパなどからも多い。店舗を訪れるお客さんはほとんどが米国人。自分で卵焼きを作ったり、黒ごまと白ごまの種の違いについて聞いてくるなど、その意識の高さや知識に日々驚かされている。しかし、まだまだ「米国で和食は人気があるけど、みんなお寿司や天ぷらにいってしまう。だから自宅でみんなが作りたいと思うような、本当の日本の家庭的な食文化を伝えたい」。海外在住の日本人としての使命感で始めた土鍋ビジネスは、今年で10周年を迎える。

ウエストハリウッドで土鍋専門店『TOIRO』を経営する武井奈緒子さん。「自宅でみんなが作りたいと思うような、本当の日本の家庭的な食文化を伝えたい」。

明るく広い店内には、さまざまな形・サイズの土鍋や、日本の職人技が光るキッチン用品、和食器が並ぶ。

2016年には編集に3年かかったという土鍋のためのレシピ本も出版。書き出したレシピは数百におよび、うち100ほどを掲載している。ウェブサイト(toirokitchen.com)では本とは別のレシピを見ることができる。

 

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