研究の道「わくわく」(Weekly LALALA 753号掲載)

ロサンゼルスで暮らす人々-vol.753

研究の道「わくわく」
笘野 哲史 |Satoshi Tomano

ロサンゼルスで暮らす人々   日本学術振興会 海外特別研究員

研究の道「わくわく」
UCLA生態進化生物学部Barber Labでアオリイカの研究をする笘野哲史さん。「研究の道は何年後にどこで何をしているかわからないし、いつ職がなくなるかという不安はあるけど、そのほうがわくわくする」。

 「将来はお魚博士になる」。そう言っていた少年は、研究者になった。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アシスタントプロジェクトサイエンティスト兼日本学術振興会海外特別研究員、笘野哲史さんの専門は〝イカの王様〟と呼ばれ、特に商品価値が高いアオリイカ。目的は「捕りながら守り続けていくために生態を明らかにする」ことだ。イカは日本では数十年来、水産物トップ3に入る一方、その生態に関しては基礎的な研究が進んでおらず、理由の一つには養殖ができないことが挙げられるという。世界の漁獲量は過去30年間で激減しているが、イカなどの頭足類は1960年代から資源量が増加。しかし「捕りすぎていなくなってしまった生き物はたくさんいる」。同じ過ちを繰り返さず、養殖など有効な保全政策を取るためにも笘野さんら研究者による解明は必須だ。
 岡山県の実家は祖父の代から牡蠣の養殖業と漁師を営む。そこには常に海があり、子どものころから「生き物と海が大好き」だった。一時は高校の先生になるつもりでいたが「先生になった場合に5年後、10年後にどうなるか見えてしまって。研究の道は何年後にどこで何をしているかわからないし、いつ職がなくなるかという不安はあるけど、そのほうがわくわくする」。さらに大学の先生による「お前はもっと広い世界でやっていける人材だ」というひと言にも背中を押され、研究の道へ進もうと決意を固めた。ところが大学院在籍中のある日、アオリイカに関する論文を偶然見つけた。「見た瞬間に衝撃を受けました。先にこんなことをやられたら絶対に勝ち目はない」。研究者の世界では〝この研究ならあの人〟という武器が必要だ。「アオリイカの研究で生き残るにはこの研究に加わるしかない。そうでないと僕の研究者としての道は終わってしまう」。
運良くその研究チームは日本のサンプルを持っておらず、論文を書いた人物や教授に「日本のサンプルを持っていくので一緒にやりたい」と連絡を取り、数日間の強行軍でLAを訪れるなどし、約1年半かけて渡米にこぎつけた。
 UCLAへ来て半年が経過した現在、さまざまな問題点はあり、「ちょっとずつは進んでいるけど思っていた以上には進まなくて焦っている」と、悩みながら挑戦する日々を送る。「僕の研究はすぐに養殖業に実用化とかそういう華々しいものじゃない。でも、自分がもともと漁師出身だから、海の生き物を捕りながら守るにはどうしたらいいのかとずっと思っていた。日本の漁師さんが元気になるような活動もしたいし、もっともっとわからないことを世の中に明らかにしていきたい」。海が大好きな漁師の少年は、母国を離れて海を越えた。意欲的に研究に取り組む先には「日本のためになる研究をして水産業に貢献する」というぶれない目標がある。

実家は牡蠣の養殖業と漁師を営み、子どものころから生き物と海が大好きだった。
笘野さんに衝撃を与えた論文を書いた研究者(左)、プロジェクトの教授(右)とともに。チームに加わるため数日間の滞在でLAへ来るなどし、その熱意が伝わった。


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