小林稔侍 健さんの服を着て素直に 57年にして映画初主演

小林稔侍 
健さんの服を着て素直に 57年にして映画初主演

「僕はぽかっと抜けたいいかげんなところが あるおかげで、長く続けられている」と小林稔侍

 芸能生活57年の俳優小林稔侍が「星めぐりの町」で映画初主演を務めた。「主役をやりたいなんて思ったことがなくてね。1枚だけ買った宝くじが当たって『ほんとかよ』って言うのと同じ感じですよ」と苦笑する。
 和歌山の高校卒業後、東映ニューフェースに応募したのが1961年。社長面接は「こんな田舎者が映画会社の最終審査に残るのは夢のようです」と言っただけで退室となった。「だけど合格。無になって言った素直な言葉に、何かを感じてもらえた以外にないよね」
 東京にいるだけで緊張が続き、「面接後に夜行列車で和歌山に帰る途中、疲れが胃に全部きちゃって、岐阜駅で救急車を呼んでもらったんです」。
 東映入社後も、同期約20人で短い映画を撮ってもらうと、「初めて自分を見て、自分の声を聞いて落ち込んで、寮で2日間布団にくるまってた。だから夢は主役なんてことにならないんです。夢は親に家を建ててあげることだけだったんです」。
 長い下積み後、味のある俳優として確かな地歩を固めてきた小林に、降って湧いた初主演映画。脚本は黒土三男監督のオリジナル、愛知県豊田市の山あいが舞台だ。実直な豆腐店主(小林)が東日本大震災で孤児となった少年を預かり、ゆっくりと心を通わせていく。
 目指す演技はあの面接時の心境と同じ。「作為がない芝居は褒めていただける。(今作では)監督の演出通り素直に過ごせました」と振り返る。
 「衣装は靴下1枚まで全部私物なんですよ。監督が僕のままを役にしてくれたから」。私服の中から監督に選ばれたのは、小林が敬愛してやまない高倉健にもらったジャンパーや鳥打ち帽だ。
 「健さんといると一番楽しいんですよ。子犬がはしゃぎ過ぎると飼い主からたしなめられるでしょ。あの関係でね」。かつて念願かなって本格共演した映画「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)には役を超えた小林の高揚があった。長男には健と名付けた。愛車は約25年前に健さんからもらったパジェロだ。
 「健さんがもし生きていて(今作を)僕に内緒で見たら…、きっと『おい稔侍、うまいもん食おうか。あれ食べたいって言ってたよな、あれ行こうか』って言うか、夜遅く留守電にちょこっと『良かったぞ』と入れてくれるんじゃないかな」。

映画「星めぐりの町」の一場面。高倉健にもらった帽子とジャンパー姿の小林稔侍
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